動き出す時間-2
「ごくっ……うえっ、苦ーい!」
「ガキにはまだ早いか。」
先生は少し笑った。私はすぐにグラスを先生に返す。
「あ、そーいや昨日、橋本ってのが来てた。」
「えっ?橋本クン、何て…」
「あぁ、江口さんを守ってあげたいーとか、江口さんが好きだーとか。聞いてるこっちが恥ずかしくなるようなセリフをな。」
「やだ、橋本クンてば…」
「いいヤツそうじゃないか。なかなかの好青年だ。」
やっぱりな…先生、そんなこと言わないでよ。
でも、予想はできていたこと。ここで悲しんでちゃだめだ。
「そう、橋本クン、すっごくいい人なんですよっ!私たちのこと応援して下さいねっ!」
本心を見破られるのが嫌で、わざと明るく振る舞った。
「さぁ、飲んで下さいっ!」
「もうそれぐらいで…俺にあんまり飲ますなよ。」
私は先生の言葉を流して、グラスが空になるとビールを足し続けた。先生は酔ったらどうなっちゃうんだろ…
それから1時間後…
…先生はなぜかイライラしていた。
あれ?大人って、お酒を飲むと、陽気になるんじゃ…
先生は、足をガタガタさせて貧乏揺すりなんかし始めてる。
「―帰るぞ。」
それだけ言うと、会計を済ませて店を出た。そして、私の腕を掴みながら、先生のアパートに向かう。
「せんせっ、痛いっ」
エレベーターの中でようやく掴まれていた腕を解放された。
そして先生は壁に私を追い詰め、唇を強く押し当ててきた。
「んっ…」
少し荒い息からは、アルコールの匂いがする。眼鏡の奥には、ぎらぎらとした瞳があった。急に怒り出して…どうしちゃったの?
エレベーターを降りてからは、また腕を引いて部屋に向かい、鍵を開ける。
「先生、やだ、こんなの…」
「何をいまさら…」
先生は私を抱きかかえ、部屋を進み、ベッドの上に放り投げた。
「きゃっ!…先生、どうして…」
「どうして?お前はいつもこうやって俺に抱かれてきたじゃないか。」
先生はいつもの冷たい表情に、怒りを滲ませたような複雑な顔…わけが分からなかった。