美しすぎる同窓生-1
大きな瞳に滲み出す泪で、化粧が崩れてしまうのを憚りながら、彼女はそのしなやかな指に絡めた木綿のハンカチをとても上品に使った。感情を露わに泣き崩れた同窓会会場から抱きかかえるようにして連れ出し、ロビーのソファーへ座らせて、ようやく落ち着きを取り戻した。
夫を亡くしていたのは知っていた。同窓会の出欠ハガキを投函したすぐ後のことで、車事故だった。縁の遠い私を始め、今日同窓会に参加しているメンバーには、葬儀の案内も来なかった。当初は会への参加を辞退することも考えていたが、四十九日が過ぎ、ようやく生活にも落ち着きを取り戻せて来た頃だった。気持ちを切り替える意味も込め、参加したという。
しかし数十年ぶりに同窓生たちと顔を合わせ、懐かしさと幸福の中へ身を置いていると、張り詰めていた気持ちの結び目が解け、ふとした何気ない会話の中、突如感情が込み上げてしまった。
長い睫の合間から、突如溢れ出して来た泪。感情よりも先に反応した自分の躯が愛しく、それで胸の奥底へ抑し留めていた感情が一気に噴き上げてしまった。
着物姿で床に蹲り、肩を奮わせて嗚咽する彼女を、隣の席にいた私は駆け寄り抱き上げた。
オフィス街にあるシティーホテル。休日のロビーは人影もまばらで、喧噪は高い天井にやや遠くから響いていた。並んで掛けた懐かしい横顔。寸分の隙もない化粧と髪、召した着物の着付けでその美しさを一際輝かせていた彼女が、そうして一旦感情を破裂させ、区切りを付けたことで、懐かしいあの頃のものになっていた。桃色に上気した項が美しい。私の視線に気付くと彼女は、照れたように微笑みを浮かべた。
テーブルに添えた、泪に濡れたハンカチを握る手を、私はそっと包み込む。
彼女は俯いたまま、手を引こうとはしなかった。
彼女とは高校1年の時の同級で、入学当初から、およそ数ヶ月前までは中学生だったとは思えない、他者を寄せ付けない美貌を、既に彼女は持ち合わせていた。
他の生徒からの人気も高く、本気で好意を寄せる者もあったが、あいにく二つ上の先輩と既に交際関係を持っていて、彼とは中学からの付き合いということ。彼女は彼と同じ高校に通うために私たちの学校に受験をしたようだった。彼らはその後もトントン拍子で関係を深め、大学こそ違う門扉を潜ったが、学生の間に結婚をして、絵に描いたような幸せを歩み始めた。
弱みにつけ込むつもりはなかった。死者に対する畏敬の念がないではなかった。
しかし自然に引き合うものがあった。
「抱いてください・・」
ぽってりとした彼女の赤い唇が、私を見ずにそう言った。
ホテルの一室。ベッドの前で向かい合う、四十を間近にした男と女。
彼女は高校生時とはまた違う、成熟した大人の色香を一層色濃く身に纏い、それは夫を亡くした憂いによってさらに深い彩りをつけていた。
私は彼女の小さな顎先を指で掬い、そっと唇を重ねた。
彼女は応じる。私は彼女の髪と背中を強く引き寄せ抱き締めて、そのふくよかな唇の合間に深々と舌を潜り込ませた。眉根を顰め、睫を奮わせる苦悶の表情。情熱は熱い塊となって、憚ることなく私の口腔の中へ滑り込んで来た。人妻、いや、未亡人の吐く劣情の吐息、その苦悩と捨て鉢な仕草に、私は久しく感じて来なかった滾りを感じた。