ルラフェン編 その一 フローラ-9
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リョカの最近の日課は、日中は魔法の集中を学び、夕暮れごろから薪割り、水汲みと目白押し。
最初は丸太を切るのも一苦労で、おがくずばかりに咽る日々が続く。それも二週間が過ぎた頃には、手斧要らずで薪を作れる程度になった。
夕方頃になるとシドレーがやってきて、風呂釜を自前の火で沸かす。その際、やたらと薪を持って行っては小銭を数える彼の後姿が見えた。
今日もいつものように薪割りを終えたリョカは、台所の分を運び込む。
すると、居間のソファではフローラが額に氷嚢を当てながら横になっていた。
ベネットに見込まれている彼女は、リョカとは別に上級魔法の修練を行っている。その手始めとして比較的簡単とされるのが閃熱系上位とされるベギラゴンだ。
街の外れにある石造りの部屋から荒野に向かって放たれる熱は、日に日に周囲の空間を歪ませる度合いを強めるが、まだ完全に自分の物にしていないせいか、必要以上に魔力を精霊にもぎ取られ、修行の途中に倒れることもあるという。
「すみません、こんな格好で……。あの、お夕飯の支度なら私が……」
彼女はリョカを見てゆっくり起き上がり、台所へとやってくる。
魔法教育の一環に調理がある。魔力の強壮に良い食材選び、精霊が忌避するものと好むものを選ぶなど、学ぶことが多い。ルビス教会の僧侶も治癒など御勤めをする場合、数日前から生ものを拒む。特に上位の魔法を使う場合は献立から注意する必要がある。
富豪の娘、フローラでも、ベネットのもとで魔法を学ぶ以上、調理は必須科目。もっとも、始めた当初はベネットのほうが苦行だったともこぼしていた。
「大丈夫だよ、これぐらい。それよりフローラさんは寝ていて」
「すみません。それでは甘えさせてもらいます……」
リョカの言葉に安堵するのはなにもフローラだけではなく、ベネットも一緒であった……。
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いつもならシドレーが風呂を沸かすのだが、その日は「やぼ用」らしくガロンを連れてまだ戻らない。妙に膨らんだ財布はきっとリョカの薪の対価だろう。もっとも、ガロンを連れて行くことでおおよその見当はついている。きっとカボチ村、西の洞窟だろう。
リョカは口の割りに面倒見の良い同行者のそっけない仕草が照れ隠しなのだろうと思いながら、くすっと笑う。
「おーいリョカ君。もっと熱くできんかの?」
「あ、はい。今すぐ……」
ベネットの声が聞こえたので、リョカは新たに薪をくべ、竹の筒で息を吹き込む。
ごぉっと燃え上がる炎に、すぐにベネットの鼻歌が聞こえてきた。
ようやく魔法を凝集させることになれたリョカは、比較的大きな薪に刃を放つ。それを二、三回繰り返し、不器用な木彫りの動物を作る。犬にも馬にも見えるそれを炎にくべると、パチっと火花が飛んだ。
明日からは放出を学ぶ予定。魔法を放つ際に、必要以上に魔力を奪われるのは浪費でしかない。魔力も体力同様無限ではなく、心労として疲弊する以上、それを節約するのは重要な技術。
リョカこの数日で魔法の奥深さをしみじみと体感していた。
――さてと、もう大丈夫かな?
あまり炎を強め過ぎても熱くなりすぎるといけないので、薪をくべる手を止める。
「ベネットさん、温度大丈夫ですか?」
換気用の窓をガラッと開けて尋ねるリョカ。しかし、そこにいたのは一糸纏わぬ姿のフローラ。
青い髪をタオルでまとめ、さあ湯船に浸かろうという最中、いきなり開いた窓を凝視するフローラ。その姿勢のせいか、リョカの角度からだと全てが見える。
手に収まる程度の小ぶりなおっぱいは形がよく、スベスベしていてさわり心地がよさそう。その中央にピンクの突起があり、互いにそっぽを向いている。
お腹周りは彼の知る裸体と比べるとやや肉がついているが、女性らしい丸みを帯びている。
しっかり手入れのされている股に余計な陰毛はなく、ピンクの割れ目と恥ずかしそうに皮に隠れるクリトリス……。
「きゃー!」
ごく自然な反応に、見とれていたリョカはようやく我に返る。しかし、その刹那、彼女の翳した手のひらに光が集まりだし、それが彼へと放たれる。
それは光、水、炎、風、熱、大地の精霊を幾重にも従えた恐るべし光弾であり、風呂の壁などあってないものとばかりにぶち破り、ついでにリョカを数キロ先の荒野までぶっ飛ばす。
不幸中の幸といえるかは別として、リョカの脳裏には可愛らしく頬を染めて恥ずかしさで泣き出しそうになるフローラの裸がしっかりと残っていた。
あくる日、フローラは彼に目もくれない。ベネットから修行の代わりに大工道具を渡された……。
続く