ありのままにそのままに-1
1.プロローグ
街道を歩いている旅人がいました。彼は、職を探しに隣国へと向かっているのです。
その旅人がある日、道端で一匹の猫に出会いました。優雅な感じのその猫は、旅人を見て挨拶をしてきました。「こんにちは。」
「……どうも。」
猫は漆黒の体をしていましたが、体に流れるような白い線の模様が一本だけありました。「猫君、君は一体、どこまで行くのかい?」旅人は猫に尋ねました。
「別に。あてもなく、気の向くままに。」
猫がさらりと答えます。旅人は、それもまた良いなあと思ってうなずきました。一人と一匹は、黙々と歩き続けます。
ふいに、猫が質問してきました。
「旅人さん、もし自分が猫になったら、どうする?」
旅人は、少し考えてから言いました。
「そうだな……俺はいつもいつも、何かに縛られて生きてきた。家族とか、社会とか、そういうものに。猫になったら、君の様にあてどもなく旅をしたいと思うよ。」
そう言って彼は短く笑います。
旅人には、国に妹や弟がおりました。彼の兄弟は飢えていて、彼を頼りにしているのです。両親は、流行り病で数年前に死んでいました。頼りにされている彼自身も、まだほんの少年。しかし、彼は、小さい弟や妹達のために、稼がねばなりません。
「もう、お別れだね。」
いつのまにか、二本の分かれ道まで、一人と一匹はきていました。ここまでくれば、隣国まで後もう少しです。