隣家の女-1
腋の下から滲み出た汗が、脇腹を伝い音もなく流れ落ちていく。
赤い唐草模様の天板の上に溜まりを作って澱を成すそれは、女の抑揚によって深く揺らされ、表面がブルブルと小刻みに震えているのが見える。
暑い、、
布団のない炬燵の天板の上へ腰掛けたまま、私は胸を反らせて天井を仰ぎ、到達する予感のない甘い快感を意識から僅かに遠ざけて溜息を吐いた。襖や天井、畳に染み付いた湿気や退廃が、臭気を帯びて滲み出し、膚 に纏わり付いているような嫌な気配がある。こんな場所で生活している事自体が、既に不健康なのだ・・・私は窓を覆うようにして置かれた子供机をぼんやりと眺めながらそう思った。
後ろで束ねた黒髪が、大きく弧を描いて沈み、また浮き上がる。
涎を啜る小気味の良い音が、退廃に伏した真昼の畳部屋を静かに満たす。快楽が螺旋を描き埋没し、また浮き上げるようにして駆け上がる。その度毎に、私は抗う事のできない衝動に身を委ねる、ある種の諦めを思う。
人妻、珠代。
家の隣に住む、5歳の娘を持つ女。
深く窪ませた脂色の頬。長い睫を震わせ上下へ駆ける彼女の横顔をぼんやりと見据え、その淫靡に艶めく肌に無数に存在している毛穴の事 を想像してみる。目には見えない。しかし、確かにそれはそこに存在する。親指の腹でそっとそれを撫でると、珠代は眉根を顰めて、夫のでない物を頬張る良心の呵責に苛まれた。
遠くで群れを成した蝉が、唸るような声を振り絞って鳴いていた。
部屋の隅に置かれた旧型のテレビが、カラカラとしたモノラルな音声を所在なさげに零れ出させていた。
どこにでもあるようなごくありふれた真夏の風景。それが、密閉された簡素な空間の中で鈍く歪められている。狂おしいまでに勃起した脂ぎった硬いペニス。そいつを口一杯に含んで媚びる、四十を過ぎた艶めかしい肉体。家の隣に住む男の誘いを真に受け、白昼堂々家の中へ誘い込み、そうして裸体を晒し、煮え滾る 欲望に媚びて憚る事のない恥知らずの女。
出入り口のガラス格子は開け放たれ、まっすぐ伸びた古木の廊下は、玄関から忍び入る淡い光に青く滲んで見える。
そっと手を伸ばし、均衡の崩れた乳房の一つを指先で覆う。触れ慣れて飽和した温い汗の感触。黒く屹立させた先端が感知した快感は、女の芯へ深く浸潤して、口腔から湧き零れる熱い淫蕩の煙となり、興奮しきった硬い陰茎を再びネットリと包み込んだ。
立ち上がり、女を変わって天板の上に座らせる。濃厚な汗の中に沈む他人の膚。女は自ら足を浮かせ、骨張った股を開くと、すべてを晒す恰好になって待つ。淑女。熟女。自らの意志で剥き出されるその全て。そこに羞恥の素振りはない。猛々しい欲望の前にすべてを 晒し、降伏し、従順な雌となることを覚悟している。肌に貼り付いた汗と老廃物に濡れた鋭い繊毛。彼女のそれは硬く、日の光を浴びれば銀色に艶かしく輝いた。ドロドロに弛緩した黒紫の性器が、私の延べた指先によって剥かれる。ネチャリと音をさせ、熱くなった部分が空気に触れる。感動が女の背筋を駆け上がり、そこに激しく触れられたいという願望で体中の血液が沸騰する。
私は乱れた女の髪を鷲づかみにし、顔を正面から向き合わせる。脅えた表情を上目遣いで繕い、そうされる事も欲望のひとつである事を告白する。
「舐めて欲しい?」
聞いてやる。脂色の汗に汚れた表情が、陰核を詰られる快感に酔いしれて焦点を見失う。赤く充血し、その 分厚い表皮を剥いて大きく膨れさせている女の芯は、指先で捕らえるに柔らかく、熟れた果実を思わせる程に重い。
「欲しいわ…」
珠代は眉根を深く顰め頷きながら、吐き零す溜息に交えてそう答えた。
目の前で甘く弛緩する肉体を頭の先でなぞるようにして滑り降り、自身の意志で大きく割られた脚の付け根、素っ裸のそこへと潜り込む。そこの放つ特有の臭い。熟れて捻れた陰鬱な混沌に唇を寄せる。
あ、ああ…