ポートセルミ編 その二 出会いと別れ-1
ポートセルミ編 その二 出会いと別れ
レヌール港を出発して半日揺られたら、そこはポートセルミ。荷物持ちと化したリョカは真鍮製の鞄を片手にアルマについていく。
西国へくるのは久しぶりだが、東国のやぼったい田舎な雰囲気と違い、町並、人波、どれをとっても洗練されたようにみえた。
レンガ造りの道を行き、路地をいくつか曲がってたどり着いたのは、小さなお店。ショーウインドウにはクローズとあり、並べられたイミテーションには布が被せられていた。
「ここよ」
「え? ここ?」
想像していたというか、アルマの不遜な態度からするとかなり小さいせいか、リョカは交互に彼女とお店を見つめてしまう。
「そうよ。意外? もっと大きいと思った?」
「え、ええ……」
「ふふ。そうよね……」
アルマはリョカの反応を楽しそうに笑った後、裏口のドアから入る。
裏口のドアを潜ると、表の店の規模よりずっと広く、何に使うのかわからない工具が並んでいた。
「え? え?」
再び驚くリョカ。宝石店というからにはもっと小奇麗で整ったものを想像していたが、実際はいかつい工具の溢れる場所であり、素人目にもかつて見たドルトンの工房の数倍の設備が見える。
「ウチは基本店売りしていないの。表の店はオマケみたいなものね。普段は直接お得意様から依頼を受けて、ここでこうしてとんてんかん……」
アルマの手にあった不自然なタコは、ここでの作業のせいだろう。煌びやかな表の雰囲気の裏で、研磨剤の油に塗れた仕事をしていると思うと、ただわがままなだけではないと思えてくる。
「今回の依頼は私だけじゃ無理だったからドルトン親方に頼んだんだけどね」
舌を見せて笑う彼女に、リョカは昨日とは違う、暖かなざわめきが胸に起こる。
「アルマさん……」
リョカは荷物を抱えながら彼女に歩み寄り、ふと手を差し出していた。
「ん? なに?」
「あ、いえ……、荷物、どこに置けば……」
「えっと、そうね、また直ぐに旅に出ると思うし、ひとまず入り口脇に置いといて」
「はい……」
リョカは言われるままに入り口に荷物を置く。しかし、その心境は荒波がごとく揺れ動いていた。もし彼女がそっけなく応えなかったら、リョカは胸中の気持ちを理解せず、それに流されて求めていたかもしれない……。