ポートセルミ編 その二 出会いと別れ-8
「ええい、もう! 闇を切り裂く炎の矢、輝き唸れ、ベギラマ!」
詠唱と印を組んででの中級閃光魔法。しかし、アルマ自身の魔力が低いせいか、勢いは弱く、ドラキーの尻尾の辺りを焦がすだけ。
「もう、なんで私ってばこんなに魔法が下手なのよ……」
その威力にがっかりしながら、怒ったドラキー達の翼でぺちぺちと叩かれる。
「くっ、この……」
リョカは昆を奮いながら、メタルライダーの剣を弾く。素手になった者は後ろの下がり、次の魔物と交代する。その統制の取れた動きに驚きつつ、一方でその攻撃が弱いことに気付く。どうやらこの魔物達は強くない。そして、本気で襲ってきていない。
「……さぁて、そろそろ懲りただろう……。ほな皆さん、勘弁したれや……」
その声に導かれてか、ドラキーがふわっと上空へと逃げる。メタルライダー達もそろそろと後ずさりを始める。
「……ほなさいなら……」
「なっ! 貴方達がカボチ村を襲ったんでしょ!?」
まるで潮が引くように消えていく魔物の群れに、アルマは悪態をつく。しかし、虚空の声は無視を決め込む……が、
「そこだ! 唸れ、雷神!」
ゴオォォォッ! と凄まじい唸り声と一緒に炎が上空より放たれる。その一瞬の光が辺りを照らし、一瞬だが金色の大きな翼を持った魔物が見えた。
「まさか、あれがキラーパンサー!?」
翼の魔物は炎をすんでのところで交わし、お返しにビョオォゥウウウっと吹雪を放つ。
「ちょ、一体なんなのよ、絶対おかしいわ!」
リョカに庇われながら、アルマは必死に叫ぶ。
「こい、ラルゴ!」
テリーの声にどすどすと現れる緑の竜。二メートルを優に越すその巨体はハーケンを構えている。
「なに? 魔物!?」
アルマの悲鳴もどこ吹く風、ラルゴと呼ばれた竜は壁に向かってハーケンを投げると、簡単な足場を作る。テリーはそこを足場に跳躍し、さらに炎を巻き起こす。その間も竜はせっせと足場を作り、さらには炎を放ち、辺りを照らす。
「テリーさん、そんなことをしちゃ駄目だ! ここには幼い魔物がたくさん居る!」
先ほどのドラキーたちは無事に避難できただろうか? 逃げ遅れたメタルライダーは隅っこで震えている。
「そらそら、どうした!」
「ふん、人間のクセにやるねぇ〜!」
火の玉をいくつも吐き出す翼の魔物。それはテリーの攻撃を相殺するのが目的らしく、炎はぶつかりあい、空中で四散する。その一部が逃げ遅れたメタルライダーに向かう。
「危ない!」
リョカはそのメタルライダー庇おうと走り、真空魔法でそれを相殺する。
「あっ!」
激しい戦闘のせいで足場が崩れ、そのままリョカは奈落へと誘われる。
「リョカ!」
アルマの叫びもむなしく響き、頭上ではいまだに銀髪の剣士と翼の魔物が戦いを繰り広げていた……。
**――**
落下の間にできること。防壁魔法を唱えながら、できるだけ壁に身体を当て、勢いを殺す。人生二度目の落下に複雑な気持ちになりながら、リョカは五体無事で着地ができた。
それでも足をくじく程度の損傷があり、中級治癒魔法でそれを癒す。それが終ると、今度はレミーラで光を集める。確かな印でないため光は弱いが、歩く程度には申し分ない。
上を見上げると、かすかに光が見え、先ほどまでの明滅もやんでいる。決着がついたのだろうか?
リョカはテリーの周りを顧みず戦う姿勢に苛立ち、一方であの不思議な声に違和感を覚える。
「さてと、アルマのもとへ戻らないと……」
そうは呟いたものの、壁を登ることは不可能だろう。またドラキーに邪魔をされても困る。
ふと思い出す。ここが人の手が入っているということに。
もしかしたらここも人が来ることを想定しているのかもしれない。だとすれば、脱出のために階段が用意されているかもしれない。
リョカはひとまず周囲を探ることにした……。