ポートセルミ編 その二 出会いと別れ-5
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その日、アルマとわかれたリョカは、安宿にて例の田舎者と銀髪の若者と同室で夜を過ごすこととなった……。
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カボチ村はポートセルミの南にある農村だ。かつてはサラボナの台所とされていたが、ポートセルミ港とレヌール西の港が開設されてからはすっかり寂れてしまい、ほそぼそと自給自足の生活をしている。
家父長の権限が強く、特に長老の言葉は絶対であり、そのためか新しい風が入りにくく、生活レベルはあまり高くない。
都市部に出稼ぎに出る若者は、毎年何割かがそのまま村を捨ててしまうことも多かった。
「お前さん達が用心棒けぇ? なんちゃら、ひょろひょろしてて頼りねえごたぁ……」
カボチ村、長老宅に通されたリョカ一行を出迎えたのは、白髪交じりの老人。青年もそうだが、この村の人々は言葉をオブラートに包むということが苦手らしい。
「んでな、早速だっけどよ。最近ちょくちょくみかける翼の生えたキラーパンサーってのをなんとかしてほしいとよ。あんな、最近も傷だらけのぼんろぼろになった旅人がおってさ、まーず困ってんとよ」
「はぁ……」
長老のぶしつけな態度にアルマも銀髪の青年もそっと後ずさり、必然的にリョカが交渉の矢面に立つ構図。その柔らかな物腰のせいか、長老の舌はよく周り、いつのまにか怪物のことから、村を出る若者への不満へと展開される。
「あ、あの、皆さんお困りのようですし、直ぐに取り掛かりますね。それじゃあ!」
その愚痴がポートセルミの港へ向いた頃、リョカは強引に話を遮って部屋を出た。
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「……なんとなくだけど、村を出たくなる気持ちもわかるわ」
「あはは……、そうだね」
これ以上長老の無駄話に付き合っては居られないと、西の洞窟を目指す一行。目的地は一緒なので、銀髪の青年もそれに同行していた。
「でも、なんでアルマまで? お店はいいの?」
「ん〜、フレッドにも少しお休みをあげたいし、いつも開店休業中だからね。それに、こんな面白そうなこと、私を連れて行かないつもり?」
「だけど、もし本当にそんな怪物がいたら危ないよ」
しなやかなワニ革の鞭をきゅっきゅと締め、防御面を向上させた厚めのドレスを纏うアルマは、やる気十分。先ほどから熱心に呪文の本を読み、詠唱と印の組み方を練習している。
「平気よ。これでも前よりは強くなったんだから。それに、ほんとにピンチのときはリョカが守ってくれるでしょ?」
「でも、もし……」
「リョカは私と一緒に居たくないの?」
なおも不安を醸すリョカを遮り、アルマはじっと彼を見る。その傲慢ともいえる問いかけに、リョカは複雑だった。
もし、彼女が危険に晒されたら、その時は本当に守れるのだろうか?
この世の中には未知の魔物、凶悪なモノがひしめいている。特に討伐依頼を出されるようなものなら、それは覚悟を決めて取り組む必要がある。
そんなところに彼女のような、せいぜい中級魔法の印すら覚えていない見習魔法使いがいたらどうなるか?
リョカの経験からすれば、足を引っ張るだけの存在といえる。
けれど、それでも同行に反対しきれなかったのは、彼女の言うとおりだから。
もう少し、彼女の傍にいたい。傍においておきたい。それがたとえ彼女の危険を伴うものだとしても、その言葉に甘えていたい。
「もし危なくなったら、絶対に僕から離れないでね」
「うん。わかった」
リョカの出した答えは、そんなワガママからのもの。
「ふっ……」
そのやり取りを終始眺めていた銀髪の男は、軽く鼻で笑う。