ポートセルミ編 その二 出会いと別れ-19
「んで、どうすん? お前は……」
「私はお前なんて名前じゃありませんよ〜だ」
「はいはい……。デボラはんも来るんじゃろ? リョカはもすっかりその気じゃろうしな」
「あら、覚えてたの? 取り頭ってわけじゃないのね?」
「まな……。つか、俺の知り合いって言ったら数える程度しか居ないしな。きつめでわがまま、赤毛の姉ちゃん……。そしたらデボラはん以外に居ないってわけよん」
「まったく、リョカもそれぐらい覚えておけっていうのよね。私もリョカとせっかく再会できたんだし、本当は別れたくないけど、そこだけちょっと不満なのよね……」
「まぁ……。あのちんちくりんがこんなボインキュッボインな姉ちゃんになるなんて思わないわな、リョカもそういうの疎い奴だから勘弁してやれや」
「いや! 私は三年も待ったのよ? そりゃ、あそこまでたくましくて格好良くて、強くて優しくて、勘もよくなるなんて思わなかったけどさ……、あの魚顔」
「前も思ったけど、それ褒めてるん?」
「だから、今度は私を探しにきてもらおうかな……。そしたら一緒になってあげてもいいかな?」
目をきらきらさせて祈るように手を合わせるデボラ。彼女の中ではリョカが必死の思いで探し当て、跪き、手にキスをしているのだろう。
「はいはい。ま、リョカには黙っておいてやるけど、あんまり夢見てるとがっかりするで? あいつ結構もてるしな……」
シドレーは井戸の縁に座ってつまらなそうに空を見る。
かつてリョカの周りに居た女の子を指折り数え、自分の周りにはガロン一匹ということに、シドレーは嫉妬交じりのため息をついた。
**――**
昼頃、ようやく目を覚ましたリョカの枕元には手書きのメモがあった。
――おねぼうさんへ。私はこれからお仕事に出ます。なので私を探しに来なさい。その時は貴方だけの私になってあげるから……。
P.S.ドルトンさんのところで待ち伏せは無しね? もしそんなズルしたら絶対無視するんだから!
またしても手の隙間から漏れた気持ちに寂しさを覚えたが、もともと彼女とは身分が違うと冷めた笑いを浮かべる。
彼女には自分のような風来坊ではなく、もっと相応しい人が居る。
負け癖の付き始めたリョカの寂しい決断は、彼に表面的な明るさを与え、出口で向かえるシドレーに文面どおりの希望を持っていたと誤解させてしまう。
三人は次の目的地としてサラボナ―ポートセルミ間を繋ぐ洞窟を目指した……。
続く