ポートセルミ編 その二 出会いと別れ-13
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「んむ……ちゅ……ぁむ……ふぅ……んふぅ……」
「アルマ……ふむ……ちゅ……んむ……ちゅ……」
部屋に入るなり、ドアを閉めるのが早いか、リョカは彼女の唇をふさいだ。アルマもそれに応え、彼を求め、抱き寄せる。
絡み合う舌先、食後に飲んだフルボディなワインの苦味が残る。ざらつき、ぬめり、滑らかに絡み合う二人。カーテンも閉めず、月明かりに覗き見されながら、唇を交わす。
唾液から苦味が消え、滑らかになったころ、ようやく口を離すと、とろ〜りと伸びる唾液が唇同士を結ぶ。
「アルマ……離したくない!」
「リョカ、私だって……」
それが重力に断ち切られるより早く、再びリョカは彼女を抱き寄せ、唇を押し付ける。
二度目のキスは目を瞑らずに、アルマのしっとりと濡れる瞳に見つめられながら、リョカは瞬きすら惜しげに彼女の唇をむさぼる。
「んむ、ちゅ……あん、激しいの……。リョカったら、そんなに……」
「君が欲しいから、時間が惜しいんだ。僕はどうしたらいいのか、君をどうしたいのか……あむ……ちゅ……ちゅっちゅっ……んふぅ……」
彼女の背を抱え、どさっとベッド押し倒す。リョカは慣れない礼服のもどかしさを覚え、シャツのボタンも上から三つまで外して、あとは力任せに脱ぎ捨てる。
アルマはショールを脱ぎ捨て、ドレスの胸元を戒めるリボンを緩める。きっとこの不器用な男では外せないだろうと笑いながら。
「ああ、リョカ……。貴方……こんなに傷だらけになって……」
たくましい肉体にはいくつもの痣が刻まれている。それが彼の過去を雄弁に物語っており、アルマはその傷を指先でなぞり、痛ましそうに瞳を細める。
「アルマ、僕は……僕は……」
リョカは興奮で震える手を彼女の胸元に伸ばす。ドレス越しに触れるアルマの乳房。彼の大きな手にもはみ出る大きさのそれは、触れると先ほどのデザートに出たプリンより強い弾力を返す。
「あん……えっち……」
むにゅむにゅと揉みしだくリョカ。アルマはその行為に恍惚を覚え、顎を見せながら小さく呻く。
「我慢が出来なくて……」
リョカは次第に彼女へとのめり込み、完全に覆いかぶさる。
「そう? じゃあ、どうするの?」
アルマはイタズラっぽくそう言いながら、彼の背中に爪を立てる。好きだといわれた誇らしい指で彼をかきむしり、気持ちを鼓舞する。
「わからない。でもとにかく何かしたいんだ。アルマをめちゃくちゃにしたい……、どうすればそれができるのかわからなくって……!」
ただがむしゃらに身体をこすり付けてくるリョカに、アルマは戸惑いを覚える。
キスを交わし、気持ちを交わした二人がベッドの上ですることなど一つしかない。それは子供のけんかのように引っ付くことではなく、もっと素敵な行為のはず。
彼女自身、知識として本で読んだ程度だが、リョカの行為の行き着く先にそれがあるとは思えない。
「リョカ? ちょっと……」
「なに? アルマ? 僕が嫌なのかい?」
「違うわよ……、ねえ、この後どうする気?」
「この後? 僕は……どうすれば……」
「えと、まさか貴方、童貞?」
「ドウテイ? 何? それ……」
「え……」
アルマはきょとんした様子で彼を見つめると、そっと立つように胸を押す。リョカはまた何か失礼なことをしたのかと思考を巡らせるが、何も思い当たらない。
「ん〜と、その……。女の子とこんな風な雰囲気になったりとか……ないの?」
前と違い、アルマはリョカの胸元に頭をもたげ、ズボンの股間で窮屈になっているそれを撫でる。
「アルマが初めてだけど……」
「そう……そうなんだ……、へぇ、意外……。貴方って小魚っぽいし、モテるかなって思ったけど、違うんだ……」
「振られることはあるけどね……」
「ふ、フン……。そう……」
アルマはリョカに誰か意中の人がいたことが気に食わないらしい。けれど、今こうして彼と初めての時を重ねられるという運命的なことに、興奮していた。