秘密-4
俺は、そこからどうやって家に帰ったのかあまり覚えていない。
気づけば、自分の暗い部屋に突っ立っていた。こんなに江口のことが好きだったなんて。
手の中には、強く握りしめられてクシャクシャになった江口のハンカチ…
おもむろに、ハンカチの匂いを嗅いでみた。
あぁ、この匂い。江口のそばにいくと、いつも鼻孔をくすぐるコロンの香り――その時、手の甲に触れた胸の感触が生々しく思い出された。
もう俺はダメだった。
「―江口、…ぅうっ、江口、あぁ…イクっ…」
ハンカチの匂いを嗅ぎ、必死に胸の感触を思い起こす、そして江口の甘い声を反芻させながら…何度も何度も抜いた。
俺はサイテーなやつだ。好きな人を想像しながら、イッてしまうような最悪なやつ・・・
「ごめん、ごめんな、江口…」
明日、どんな顔で会えばいいんだよ。
――――――
昨日持ち帰ることが出来なかった雑誌を貰うために、またここへ来た。
コンコン、「失礼しま〜す…」
橋本クンはまだいないみたい。早く来すぎたかな。そういえば、ハンカチをここに落としたかもしれないんだけど…やっぱり無いですか。
あれっ、今日は雑誌が5冊ずつ紐で束ねられている…きっと橋本クンの優しさだろう。彼は優しい人だから。
「ふぁああ…」 それにしても眠いな…昨日も先生と体を重ねてしまった。でもそろそろ期末テストだから、その後お家で遅くまで勉強して、授業中ずっと眠くて辛かった。橋本クンが来るまで、風にでも当たってよっかなあ。
――――――
ガチャ、「…おいおい、風邪引くぞ。そして、なんちゅー体勢(笑)」
思わず苦笑いをしてしまう。江口は窓際まで寄せた椅子に腰掛け、背筋をピンと伸ばして窓枠に頭を乗せた体勢で寝ていた。少し、書架整理に時間がかかってしまい、図書倉庫のなかはすっかり夕焼け色に染まっていた。
俺は気づくと、倉庫の扉に鍵をかけていた。なぜかはわからない。ただ、二人だけの空間を誰にも邪魔されたくないと思った。そして、彼女のそばに歩み寄る。
昨日頭の中で、何度も犯した江口が目の前で寝ている。罪悪感があったから、寝ていてくれて、正直助かった。
色が白いんだな、江口は。やがて腰に届こうとする髪の毛は一本一本が細く、いつもの甘い香りがほのかに漂ってくるようだ。俺は、危険な好奇心を抑えられず、鼻を近づけて江口の存在を肺一杯に感じる。彼女に触れることは許されないから、せめてこの香りだけでも…