第三話〔続〕――死神と炎人と帝国の黒歴史-1
「――ゴルダー子爵?ふぅん……ああ、盗品はそのままバインツ・ベイの盗賊ギルドに運ばれたが……消失、だと?なにを莫迦な。当時の衛士隊はサルでも飼いならしていたのか?」
「あ、の……ゴーン様?それは、わたくしめの私物なのですが……」
「うん?――ああ、すまない。で、なんだったか話しは?」
興味本位で眺めたはいいが、ついつい本読してしまった八年ほど前の盗品記録へと呪詛を吐きだした『わたし』へ、窺うように遠慮がちな声がかけられた。
あわてて顔を上げると不安げな面持ちの男が立っていた。この部屋の主である。
齢の頃は四十過ぎくらいだろうが、この近衛隊所属だという書記官とは何度も顔を合わせているが、なんとも形容しがたい男だった。
影が薄い、凡庸だといってしまえばそれまでなのだが、けれど、そんな理由でこのわたしの知覚から逃れることができるとは思えない。
けれど、しばらく凝視してみたが別段、異常性を発見することは適わなかった。いつか、どこかで見かけたことがあるような――そんな気がするだけの凡庸を絵に描いたかのような男だ。
そんな錆びた銀のような色の髪をした中年男が、その老いにこけた頬を指でかき、言った。
「ですから!――ああ、いえ……。ですから、隣国の話しです」
「隣国?それはペガススか?ドラゴンか?グリフォンか?」
「ああ……。なにも聞いていなかったんですね?」
「……すまないな」
わざと不貞腐れたように返した。
満二十四という自身の年齢相応の面持ちができたと自負する。
すると、その反応をどう受け取ったのか「たはは、まいりましたな」と苦笑い、男が――フェルナン・モンブー第一級書記官が後頭部をワシワシとかいた。