第三話〔続〕――死神と炎人と帝国の黒歴史-8
「…………」
そして、どこか面食らったような眼差しを送ってくる。
思わず目線をそらすアルフォンシーヌ。
「……な、なに、いまの?」
「……るさい」
「まるで、うぶな処女――」
「うるさい!わたしに男性経験がないことがそんなに驚くべきことか!」
アルフォンシーヌは真っ赤になって怒鳴った。
それでも響かないように声を落とすあたりはさすがである。
もうひとりの工作員、イグナーツも反響しないように小声で、
「っく、くはっ、ぷははっ……」
吹き出した。
妙に落ち着いた声のため、その哄笑は余計にアルフォンシーヌの神経を逆撫でる。
「……そろそろ止めないと、殴るぞ?」
「ぁ、いや、すまんすまん。なに、あれだ。意外だったぞ、うん」
「〜〜っ!」
再び視線をそらしたアルフォンシーヌ。
黒フードの奥に、イグニーツの面長の精悍な顔つきを目撃してしまったからだ。
――こっちも意外だ。若かった、な。
三十の前半といったところか、冷たい感じのする鋭利なナイフを思わせる面立ちだった。
「――んま、おしゃべりはこのへんで。行くぞ?」
「っ!ああ!」
イグニーツの声にアルフォンシーヌは深く頷いた。