第三話〔続〕――死神と炎人と帝国の黒歴史-7
「ならば、なぜ?」
「おいおいおい。言ってんだろ、おまえだけは同僚だと思っているんだ、俺は。それ以上の理由がいるかい?」
「………………」
アルフォンシーヌは沈黙した。
その間にもイグニーツはどうやって手に入れたのだろう、牢の格子戸にかかった閂――それにかけられた錠前を適当する鍵で開けた。
閂が外され、正式な方法で解錠されたため扉の空間にかけられた侵入防止の魔法も同時に消えた。
イグナーツが畏れもなく、牢内へと足を踏み入れてくる。
「ぃよう、『死神』さん。お手々、出していただけるか?」
アルフォンシーヌは言われるままに両腕を掲げた。
ジャラリと手枷が音を立てる。
その手枷へと手を掛けたイグニーツは、やはり入手方法が気になるが、相対する鍵で錠を外してくれた。
ガロン、と堅い床に手枷が落ちる。
――さきの戦闘でのダメージがまだ残っているようだ、四肢に従来の力が宿っていなかった。
「ぁ……」
「気にすんな。いま、この牢の近くにいるのは俺が率いる三十人の衛兵だけ――っていう設定だからよ」
よくもまあ、それほど上手くもぐりこめたものだ。
自分のように変装が得意だと、そういった技能は習得していないため、手段として思い浮かびもしない――とアルフォンシーヌは、密かに感心した。
そのときだ、
「わあっ」
いままで手枷のはめられていた両の手首へとイグナーツが指を這わしてきた。
自らでも情けないと思うほどの間の抜けた悲鳴を上げてしまう。
その声にイグナーツはすぐに手を離してくれた。