第三話〔続〕――死神と炎人と帝国の黒歴史-46
「――わたしを置いていくな」
「は、い?あの、アルフォン――」
「ぅ〜〜っ!うるさい!だまれ!しゃべるな!」
すぐに離れると赤面し、そっぽを向くアルフォンシーヌ。
こちらを目の端で眺めつつ、続ける。
「わ、わたしは、これでも義理堅いんだ!それに、リーズロッテ先生の仇も討ちたいのはわたしだって同じだ!そ、それに、それに――それと、あなたは、わたしよりも高位の魔導師であるし、一緒にいて、損は……一緒に、いて……」
自分で言った台詞で照れるのはどうなのだろう?
そんな少女じみた失言をする『死神』が、フェルナンは愛おしく思う。
すべてを捨ててでも、と復讐鬼の魔道へと堕ちたつもりが、それでも捨て切れなかった女。
少女であった。乙女であった。
娘のような存在であり、いまは愛しい女性でもある。
――なにも守れない四十男だが、彼女だけは守り通そうと誓った。
神にではない。
彼女の師であり、先達であり、母でもあっただろう、姉へとだ。
「――じゃあ、すこし待つから早急に用意を頼む」
「っ!」
あらぬ方向を向いていたアルフォンシーヌがこちらを見つめ、そして顔を輝かせた。
『ゴルドキウスの死神』が満面の笑みを浮かべる。
「ああっ!待ってろ、すぐに準備を済ませる!」
この魔導師たちが歴史の表舞台に姿を現すのは、まだすこし未来の話しである。