第三話〔続〕――死神と炎人と帝国の黒歴史-45
「………………」
「たはったはっ……たはは……」
夜が開けた――。
先に目を覚ましたフェルナンが身支度を整え、アルフォンシーヌの身体も清め、樹海の出口までの地図に置き手紙をひとつ添え、旅嚢背負ったときだ。
――空洞の出口へと続く道をアルフォンシーヌに塞がれた。
眠っていたと思っていたが、存外早くに覚醒し、こちらの出方を窺ってきていたのかもしれない。
――なかなかの迫力ある眼差しだ。
この目はきっと女性にだけの使用を神が許した、対男性に対しての最強の矛なのである。
その双眸を振り切る男は、男ではないのだ。
「……どこに、いく?」
「たはは……」
「笑って誤魔化すな」
張っているわけでもないのだが、それでも、その声には中々の強制力が孕んでいた。
思わず愛想笑いを殺すフェルナン。
アルフォンシーヌが詰め寄ってきた。
「どこに行くんだ?」
「……ふぅ。フェンリル王国へ向かおうかなと」
「聖人の探索か?」
「ああ。『ベルボクス』山地のツンドラ地帯――『ヘスターシャの大雪原』へだ」
「氷狼、か……。確かに、あなたの『焔舞』があれば探索も容易だな」
「だが――」と半歩の距離に近づいていたアルフォンシーヌが、さらに距離をつめ、胸へと顔を埋めてきた。
旅衣装越しに背中へと腕を回される。