第三話〔続〕――死神と炎人と帝国の黒歴史-39
おそらく、アルフォンシーヌはイグナーツになにか打たれるなり、嗅がされるなりしたのだろう。
女を――男でもそうだが、普通は女だ――篭絡するときに媚薬を用いるとき、即効性の薬と使うと、逆にその薬効を言い訳に自己の安定を保たれてしまうことがある。
そのため、玄人は普通、四半日かそこら後に効果が現れる品を使うのだ。
実際に、帝国軍部でもその系統の薬を配給していた。
(もし、そうだとしたら……まずい……)
そもそも、捕らえた人間を堕とすためのモノであり、被薬者の身の安全などは度外視したものである。
この薬――『アーバネスの微笑』と呼ばれる媚薬は精神を性的に倒錯させる効果があるのだが、それでも欲求を発散しないと粗悪品よろしく精神が壊れる。
もちろん、使用量は決まっているし、第一、すぐにコトに及ぶこともあり、そんな前例はないだろうが、しかし、開発した薬学魔導師はそんなことを言っていた。
もう一度、腕の中に収まったアルフォンシーヌへと視線を移す。
なにが嬉しいのか、目を細めて微笑み、こちらの胸板に頬を寄せたり、匂いをかいだりしてきていた。
――すくなくとも、正常な彼女ならば一生しなかっただろう痴態だ。
救出から半日近くが経過していた。きっと、薬効が現れてからも必死にひとり耐えていたのだろう。
それでも耐えられなくなったのだ。
そして、この暴挙である。
フェルナンは自分がとる道はひとつしかないことを悟り、だが、その前にひとつ確認しなければならないことがあった。
「アルフォンシーヌ……」
「ん?なんだ?」
とろんとした目つきで返してくる『死神』。
そんな愛らしい仕草に脊髄が震え、ただソレを表には出さずにそっとその白磁の頬を撫でるだけで済ませる。
「アルフォンシーヌ……俺は、いまからきみを抱く」
「そ、そうかっ……ん……ふふっ……」
アルフォンシーヌはいよいよ末期なのだろう、瞳を輝かせ、しかし、すぐにその喜色を押さえ、それでも口端を吊り上げた。
これでは、ただの素直じゃない痴女だ。
フェルナンは、その細い身体を腕で、わずかに強く抱き、続ける。