第三話〔続〕――死神と炎人と帝国の黒歴史-38
「んちゅ、むぅ……ふぅむ……んぅ……」
最初はおそるおそるといった、触れるだけのようなキス。
だが、その行為が気に召したのか、啄ばむように柔い唇を押し付けてくる。
「ちゅる、ちゅるる……んっふむんぅ……ぁむ……」
さらに行為はエスカレートし、槍のように尖らせた舌先でフェルナンの老いた、乾いた唇を押し割り、その口内へと侵入してきた。
唇の裏側を舐め、歯茎をなぞり、こちらの舌を見つけると有無もなく絡めてくる。
――闇夜の静かな樹海に、ひどく人工的な粘着質な水音が木霊した。
くちゅる、くちゅ、ちゃぷ、くちゅる…………
こちらの唾液を、まるで蝶が花の蜜でも吸うかのように舌で舐めとり、飲み込んでいくアルフォンシーヌ。
こくりこくりと、彼女の細い喉が動いたのが窺えた。
「んむう……ちゅ…………。はふぅ……」
五分以上はそうしていたかもしれない。
ようやくアルフォンシーヌが唇を介抱してくれた。
けれど、満足したわけではないらしく、岩に腰かけたフェルナンの胸元に身を預けてくる。
先ほどまで味わっていたその艶めかしい唇から、艶美な溜め息が漏れて聞こえてきた。
「アルフォンシーヌ……きみは……一体?」
「ふふっ……フェルナン。フェルナン・モンブー……あなた、見かけによらず、逞しいんだな……」
会話が成立していなかった。
アルフォンシーヌが胸板に頬ずりをしたかと思えば、微笑み、見上げてきた。
その目は何度も見たことのある、色情に酔った娘の目だ。
バインツ・ベイの盗賊ギルドは娼館の地下にあったために、フェルナンは商売女相手に目撃したことがあった。
しかしだ。この娘は、まだ処女だという。
だからなんだ、というわけではないが、少なくともこんな眼差しを意識的に作ることはできやしないだろう。
ならば――
「……媚薬、か……しかも、あのバカ……遅効性の薬を使いやがったな……」
フェルナンは天を仰いだ。