第三話〔続〕――死神と炎人と帝国の黒歴史-37
「――待って」
「っ?」
だが、それは肩越しの声に制された。――慌てたのか、切迫した声だった。
固まるフェルナンへとアルフォンシーヌが、一歩、また一歩と近寄ってくる。
そして――
「フェルナン・モンブー……」
「なっ――」
背中側から、首に腕を回された。
頭部を抱かれ、後頭部に柔らかな弾力を感じる。
絶句するフェルナン。
そんな四十男の耳元へとアルフォンシーヌは唇を寄せてくる。
「わたし、おかしいんだ……身体が、熱くて……切なくて……」
「っ――」
フェルナンはその腕を解くと振り返る。
見れば、すぐ眼前にアルフォンシーヌの白い、冷たくも端整な顔があった。
だが、その切れ長な双眸に納められたルビーを思わせる紅い瞳が弱々しく震えている。
まるで、病に伏せた子供のような、庇護欲を煽る瞳だ。
「フェル、ナン……」
わずかに紅潮した頬。蜜を含んだような妖艶な唇から、名を呼ばれる。
「アルフォンシ――んっ」
徐々に近づいてくる親子ほどもの歳の離れた娘の、気の強そうな細面。
べつに拘束されているわけでもないのに、フェルナンは身動ぎひとつできない。
呼気が交じり合い、鼻先が触れ、そして、唇を重ねられた。