第三話〔続〕――死神と炎人と帝国の黒歴史-35
「まさか、きみが、まだ……とは、知らず、すまん……」
「ぃ、いや?……そんな、ことは、な?」
互いに照れてしまい、どうしようもない空気になった。
しばらく、空々しい沈黙が訪れる。
その静寂を破るためか、フェルナンが然も何事もなかったかのように言った。
「――疲れただろう、アルフォンシーヌ。日が昇るまで、まだ幾ばくかの時がある。寝るといい。俺が見張っておくから……」
「いや、しかし……」
「安心するといい。もし、俺がきみを殺す任を全うするなら、とっくに殺っている」
「………………」
――べつにそんなことは心配してなどはいない。
妙な苛立ちを覚えたが、その所以が知れず、ただ悶々とアルフォンシーヌは用意された旅嚢から簡易寝具を取り出したのだった。
「…………リズ姉様……義兄さんも、ボスも……もうすこしだ。あんたらの蒔いた種は、芽吹きはじめているよ」
空洞の入り口――。
皮袋から葡萄の果汁を口内に流しこむと、フェルナンは独り、呟いた。
月のない夜だ、森の獣たちも静かなものだ。
まさか半日も経っていないのに、このイヴァン樹海の内部まで追っ手がくるとは考えられないが、その『まさか』を警戒するのが工作員の基本である。
「………………ああ、まずい」
葡萄果汁は皮袋の匂いが移ってしまっていて、渋い味とすえた匂いがした。
これなら無理をしてでも新しい皮袋に買い換えておけばよかった。
辟易とした気分になりながら、フェルナンは眠気を飛ばす意味もあり、脳を働かせる。