第三話〔続〕――死神と炎人と帝国の黒歴史-33
「……――『聖人』、か?」
「そうだ。俺は最初、『サラマンドラの聖人』――『金焔の』ブロスベルあたりを誑かして聖獣八ヶ国に近づこうと思っていたんだがな?『魔人』が皇帝の本質を知っているんだったら放っておいても俺に都合のいいように動く。だからな、他を当たる」
「他、だと?――まさかっ、まだ覚醒していない『聖人』を捜すのかっ?」
「ああ。現在、まだ未覚醒なのは竜、獅子鷲、不死鳥、氷狼の四国。中でも探しやすいのは不死鳥と氷狼だな。それぞれ、聖獣の生息分布の範囲が狭い」
「だが……いや、だからこそだ!聖獣の国の連中だって張っているだろうし、帝国だってだた指をしゃぶっているわけでもないんだ!危険すぎる!」
「なんだ?心配してくれている?」
「っ――」
アルフォンシーヌは睨みつける。
こちらは助けてもらった手前、気遣ってやったというのに、なんたる言い草だ!
「たははっ!冗談だったんだが、そんなに怒るとは……。すまんかったな。ただ、だからだ。俺の行く道は危険が一杯――きみを巻き込もうとは思っていないんだ」
だからな――、とフェルナンが真摯な顔付きで続けた。
「そこにはきみの分も旅嚢もある。大陸は広いんだ、きみほどの工作員だったらどこでだって生きることができる」
「……自由にしろ、と?」
「そうだ。ただ、帝国への帰還はお勧めしないな。すでに軍部はきみを切り捨てた。刺客も放っている。まあ、その刺客一団の班長は俺で、他の隊員はすでに――な。さて、ひとりでどう助けたものかと考えていれば、イグナーツの脳足りんが功を焦って、独走してくれたお陰で手間が省けた。軍部はバカと間抜けしかいないようだな。たはったはっ」
フェルナンが、自身の首を人差し指で斬る真似をし、そして、声を上げて笑った。
空洞に、それこそ間の抜けた笑声が反響する。