第三話〔続〕――死神と炎人と帝国の黒歴史-31
「――パスク・テュルグレの言っていた『正史にない九番目の存在』のことか?」
「察しがいいな、相変わらず」
「まっ、待て!いるのか、本当に!大陸史に記されていない『九番目の獣』が!」
「いる。聖獣ではなく『魔獣』が、その主として『魔王』と共に――」
「そんな……」
『八頭の聖獣』――カビの生えた昔話だ。
聖人、聖女が現実に現れるまで、聖獣八ヶ国の王家を神格化させるホラ話だとさえ思っていたほどである。
仮に件の物語が現実であったとしても、そこへさらに秘密があったなどと、誰が信じられるのだろう?
「――まあ、信じる信じないはきみの勝手さ」
「なに?」
まるでこちらの胸の内を見透かしているかのように告げてきたフェルナン。
「俺は、復讐を遂げたい。けどな、『魔王』は『聖人』にしか倒せない」
「『聖人』にしか?なんなんだ、その理屈は?」
「それが、本当の歴史なんだよ。裏切りの『聖人』――つまり『魔王』。そして、その男を大陸の最南端に封じ、八人の聖人、聖女たちは結界を張るように、それぞれの国を建てた。だから、正史に従うならば、『魔王』を討てるのは選ばれた八人しかいないんだ」
「ちょっと待て!フェルナンの――いや、バ、バジリウスだったか?」
「フェルナンでいい。捨てた名だ」
「――フェルナン。おまえの話しでは、つまり、帝国というのは、」
「そうだな。半ば復活を遂げた『魔王』の血統が建国した国だ」