第三話〔続〕――死神と炎人と帝国の黒歴史-29
「――まさか、アイントベルグ夫妻なのか?」
「正解。マスターと俺の義兄、ベルゼルはあの事件の半年くらいまえから同じ酒場に通っている。当時のバーメイドからも、彼らが同席したことがあったと言質をとった。それに――四年前、姉貴の家に招かれたときにちらりと覗いた地下の宝物庫」
「……ちらりと?」
アルフォンシーヌもアイントベルグ夫妻の家には何度も行ったことがある。
そして、確かにあの家の地下室には宝物庫があるのだが、けれど、数々の魔導トラップが仕掛けられており、決してちらりと覗けるような場所ではないと記憶していた。
一緒に招かれていた『魔人』パスクや、その友人であるジーン・クルバ、それと弟弟子だったロニーもだったか、遊び半分で侵入し、トラップに引っかかり、悲惨な目にあっていたことは忘れがたい。
なのに、フェルナンは肩をすくめ、頷いた。
「盗賊の職業病ってやつだな。それに、いまのきみだったら簡単に忍び込める程度の中の上程度のトラップだぞ?――まあ、いい。その宝物庫に金の仮面が格納されていた」
「仮面?――ぁっ!」
パスクの言葉が脳裏で蘇る。
――『最深部に眠った失われし魔獣の仮面による供物の儀式』
「……魔獣の、仮面?」
「ああ、やっぱり聞いていた、『魔人』から?そうだ。それが、姉貴夫婦が殺される要因となった帝国の秘匿しておきたい黒歴史――」
「なんなんだ、それは?仮にそんなものがあったとして、過去の事象ひとつで国が滅んだりするものか」
帝国は七百年以上も続く由緒正しき国である。
それは口外法度な歴史のひとつふたつはあるだろうが、だからといって、それが国の存亡に関わることなどはないはずだ。
そう思ったアルフォンシーヌは怪訝な顔を向けたのだが、フェルナンは首を左右に振った。