第三話〔続〕――死神と炎人と帝国の黒歴史-25
「なっ、なにを――」
「だから、失礼ながら、と断っただろう?まあ、俺は「きゃあ」とか「いやん」とかいう悲鳴よりも「うわあ」とかみたいな無駄に色気づいてない悲鳴の方が好きだから、気兼ねなく喚いてくれてかまわないんだが?」
「〜〜っ!だ、だれが!」
アルフォンシーヌは頬を紅く、叫んだ。
ここでもタハハ笑いをあげると、フェルナンは目前に開けた穴から宙へと飛び出した。
「ちょっ――」
女性にしては身長の高い自分と平均的な身長のフェルナンとでは、そんなに体格差はない。
だが、軽々と持ち上げるその膂力には感心し、安心感も覚えたが、それでも飛び降りられるとは思いもしなかった。
しかし、すぐに浮遊感を四肢に覚える。
見るとフェルナンの膝から下が青色の火を噴き、その推力で宙に浮いていた。
「……とうとう降ってきやがったなあ」
「えっ?……ああ、雨か」
例の建物からわずかに高いとこまで浮かび上がったフェルナンがぽつりと呟いた。
すると、いままで気づかなかったが、しょぼつく雨が頬を濡らしてきている。
「たっはっはっ!これは好運――」
「なに、をぉっ?」
アルフォンシーヌは声にならない悲鳴を上げた。
フェルナンが背中に回してきていた左腕を離し、足元の石造へと向けたのだ。
重力に引かれた上半身を支えようと、とっさにフェルナンの首にしがみついたアルフォンシーヌ。
筋が張り、水気のないザラついた肌だった。どこか郷愁を覚える、老いた男の匂いが鼻腔を抜ける。
――こんなときになんなのだが、照れてしまった。この仲のよい男女が睦まじく抱き合う格好に酷似していたことも関係しているかもしれない。
そんなふうに密かに顔を火照らせるアルフォンシーヌに気づいていないわけもないだろうに看過し、フェルナンが左腕を軽く振った。