第三話〔続〕――死神と炎人と帝国の黒歴史-23
「この魔法を創ったのは俺だ。俺も、十六まで『賢者の律令』の学徒だった。これでも優秀だったんだ、炎系の魔法だけはな」
「……ふぅん」
「あらら?信じてない?たははっ。これは参ったな。まあ、本当なんだ。とまれ、その後、ちょっと問題を起こしちまった俺は学園を去ることになり、といっても行くあてもなかったからな――結果、バインツ・ベイでブラブラしていたら盗賊ギルドのマスターに拾われた」
「バインツ・ベイ?盗賊ギルド?――っ!そうか!あの、報告書は……」
アルフォンシーヌはそれらのキーワードから、彼の部屋に置いてあった過去の工作員が提出した報告書を思い出した。
前を見ると、ちょうどフェルナンが立ち止まったところだった。
廊下の壁をペタペタと触っている。
「ここら辺、か?」
すぅ、と息を吸ったフェルナンは右手で壁を撫でた。
すると、触った部分がみるみる黒く変色していく。
爆発するでもなく、煙を発するわけでもない。だが、熱によって炭化したのは確かだ。
三十秒もすると右腕を半径にした黒い円が壁に描かれた。
「っ!」
フェルナンがその炎の中心を蹴った。鈍く、重たい音が鳴り、壁は向こう側に外れる。
そうして開けられた穴の先は、外だった。
高さから三階くらいだろう、とアルフォンシーヌが見積もったときだ、穴の向こう――地表から悲鳴が聞こえた。
覗くと、眼下の往来一杯に集まった集団の中にフェルナンの蹴り外した壁が落下したようだ。その直撃を受けた数人の悲鳴である。
「たっはっはっ!ざまあみろ。あれ、全部、敵だ。この街の領主の私兵だよ」
「領主?」
「ああ。皇帝陛下万歳、っていう元リンクス王国の騎士隊長だった男さ。ほら――続々と集まってくるぜ、気色の悪ぃ連中が」
地表の彼らもこちらの存在を認めたようだ。
口々になにか叫びながら、この建物へと駆け入ってきた。