第三話〔続〕――死神と炎人と帝国の黒歴史-22
「……?……ぁ」
なんだったのだ?と眉根を寄せたアルフォンシーヌだったが、そのとき、四肢を拘束していた枷の抵抗がなくなっていることに気づいた。
そう察した瞬間、あわてて立ち上がる。
フェルナンの意図がわからない以上、警戒するにこしたことはない。――すでにそれで一回失敗しているのだ。
そんなこちらの反応にも気を悪くした気配はなく、フェルナンは出口を指差した。
「お元気そうでなにより。それじゃあ、行くぞ?騒ぎすぎたし、それにそろそろ――」
わずかな距離を置いた場所で、大勢の人間が走る物騒な気配が漂ってきた。
「――な?」
そう言い、「こっちに」と駆け出したフェルナン。
拘束時間もさほど長くはなかったのだろう、アルフォンシーヌも一、二度足をもつれかけたが、その後を追った。
「わたくしは――いいや、この際だ。慇懃もクソもない。俺の本名は、バジリウス・フィッシャー」
「フィッシャー?……リーズロッテ先生の、旧姓?」
「そうだ――」
三歩ごとに等間隔で置かれた魔導照明に照らされた細い廊下を走るフェルナン。
その二歩分の距離――フェルナンが振り返り、奇襲してきたとしても対応できるギリギリの距離を保って、アルフォンシーヌは着いていく。
「俺と姉貴――リーズロッテ・アイントベルグ導師は異母兄弟だ。俺は後妻の息子、年も一回り離れている」
「先生の、弟だったのか。……だから、あの魔法――『焔舞』を?」
「勘ちがいするなよ?……チッ」
角を曲がる瞬間、フェルナンが指を鳴らした。
その右手の先から不可視の魔力が放たれ、その先で爆発する。
アルフォンシーヌが覗くと三人の男――だったものが爆散していた。
再び駆け出したフェルナンがなにごともなかったかのように続ける。