第三話〔続〕――死神と炎人と帝国の黒歴史-21
「っ――」
蝋燭の薄明かりに照らされたその顔を目撃した瞬間、アルフォンシーヌは絶句した。
耳までの短い銀髪に老いを感じる土色の肌、没個性といってもよい特徴のない目鼻、柔和な双眸はエメラルドグリーン。中年と評して問題はないだろう、張りを失いかけた頬や首筋、中肉中背の――既知の男。
「……フェルナン・モンブー、一等書記官?」
「きみが俺をその正式な名で呼んだのは初めてだな。実はきみよりも位階は高いんだが、知らないのかと思っていたよ」
いつもの間抜けな口調とは一転、鋭くよく通った声だ。
そのために声を聞いただけでは正体を見破れなかったのだが、それでも、台詞の後に「たははっ」とひょうきんな笑い声をあげてきた。
「そんな、なんで、モンブー――さんが?だって、あなたはっ」
当惑するアルフォンシーヌ。
そもそも近衛の工作部隊とはいえ、書記官が実動任務につくことはないし、戦闘能力よりも執務能力を重視されるものなのだ。
あれほどの――、一流の工作員であるイグナーツを一蹴できるほどの能力を持った魔導師がそんな役柄を当てふられるわけがない。
ということは、この能力は周囲には秘匿だったのか?
――わずかに残った冷静な部分で分析するアルフォンシーヌだったが、明確な回答を導きだすことは適わなかった。
「――まあ、混乱するよな?けれど、のんびりとしてもいられない。動かないでくれよ」
「えっ」
疑問符を浮かべるアルフォンシーヌの視線の先で炎人の魔導師――フェルナンが指を鳴らした。
直後、わずかな熱を両手足に感じる。
だが、熱といっても熱めの風呂の湯程度の温度であり、その放熱も五秒足らずで終わった。