第三話〔続〕――死神と炎人と帝国の黒歴史-19
「きみたち、工作員にとっては司祭に説教することと同意なのかもしれないが――。奇襲、強襲、暗殺時に標的と話すことは基本的にはない。だが、一つだけ――」
「ぶっ殺せ!」
影の声を遮り、イグナーツが命じた。
手下のふたりが杖を抜き――こちらを警戒していたようで、あんななりだが、どうやら魔導師のようだ――、それぞれ手短に呪文を詠唱、短杖の尖端から『氷の矢』と『風の鎌』が召喚、闖入者へと襲いかかった。
その飛来してくる魔法攻撃が己が身に接触する瞬間、人影の身体が自ら燃え上がった。
『氷の矢』はその放射熱で蒸発し、『風の鎌』は対象に命中するも空ぶった。
――見誤った。
アルフォンシーヌは目を剥いた。
体表面が発火しているのではなく、自身を焔化させる魔法なのだ。
それは『風の鎌』といえども、炎を切り裂くことはできまい。
人影が両腕を挙げ、左右それぞれをふたりの男へと向けた。
直後、
「ぅ、うああっ!な、んなんぁ――……」
「あ、ぁあ、ああぁぁ…………」
男たちの身体が燃え上がった。
影が纏うオレンジ色の炎ではなく、仄暗い中だからこそよくわかる『闇色の焔』だ。
刹那で全身に火が回った男たちは悲鳴も半ば声を失い、さらにその数秒後、自身の命すらも失った。
「――だが、一つだけ例外がある」
人影が続ける。
それがさきほどの会話の続きなのだと気づくのにアルフォンシーヌは幾ばくかの時間を要した。
「その標的が、仇だった場合だ」
「仇だあ?こちとら暗殺専門だぞ?それこそ数え切れないほど――」
「俺の、姉と義兄だ――」
「っ!」
影が纏ったオレンジ色の炎が真紅に変色した。その発火量も倍以上――まるで膨れ上がるように影が、炎人が大きくなった。