第三話〔続〕――死神と炎人と帝国の黒歴史-18
「――っ?……っち。オイ、なんだ?」
この部屋が何回なのかは知らなかったが、上層なのだろう。床伝いに階下から複数人の物々しい気配が伝わってきた。
常人では無視できただろう微震だ。
だが、『首刈りの黒三日月』は看過できなかったようで、手下だろう男たちを振り返った。
ふたりの男は鈍いのか、なにを言われたかわかっていない――そんな表情を浮かべる。
イグナーツが、もう一度舌打ちをした。
「だから、ああっ……使えねえ!見て来いってん――」
イグナーツの苛立ちを多分に孕んだ罵声は、しかし、最後まで口にすることは適わなかった。
仄暗い部屋――その端に設えられた木製の扉が燃え上がったのだ。
無音での炎上だったが、それでも突然の光量の上昇に室内の四人は揃って絶句する。
「……な、んだあ?」
搾り出すように呟いたイグナーツ。
その視線の先で、みるみる燃え上がった扉は次第に火力を落とし、最終的に炭化し、崩れ落ちた。
壁にぽっかりと四角に空いた穴から、廊下なのだろうそこで、逆光に照らされた像が一つ、佇んでいた。
肩の関節が外れたかのように両手をだらりとさせた、猫背の人物。
「なんだ、てめえは!」
「――『首刈りの黒三日月』。やはり、おまえも――か。警戒していて正解だった」
「ああっ?」
ボソリと呟いた人影。
その声から若くはない男性なのだと察したアルフォンシーヌ。
それどころか、どこかで聞いた記憶まであったのだが、どうにも思い出すことができない。
人影が続ける。