第三話〔続〕――死神と炎人と帝国の黒歴史-14
「……イグ、ナーツッ」
「俺の、近衛としての初仕事は陛下のお供だった。帝国南西、火の山脈の中腹に存在する『リプドゥアルクタ』遺跡での、叛徒と化した八人の導師を含む十七名の調査隊の抹殺……」
「なっ――」
「『魔人』の言葉は正しい。アイントベルグ導師を殺し、その妻であるリーズロッテ・アイントベルグ導師をも殺したのは――陛下だよ。あの帝剣で、両断された」
「そんな……なぜ!」
「聞いたんだろう、『魔人』から?知ってはならない、帝国の深部に触れてしまったんだ。これまで、あらゆる国権を用いて隠匿してきた事実を、発言権がある、しかも帝国宮廷外部の人間が知ってしまった――」
空いた手でイグナーツがアルフォンシーヌの細い顎を持ち上げ、顔を上げさせてきた。
動けない無様な『死神』はただ睨むばかりだ。
「だから、処分した。けれど、彼らは危険因子を残していた。おまえ――『死神』や『魔人』という軍部垂涎の強力な魔導師。殺してもよかったんだがな、それはあまりに国益に適っていないってんで、だから、おまえらを飼うことにしたんだよ。だが、『魔人』は裏切り、『死神』も真相を知ってしまった」
「イグナーツ……まさか、わたしに近づいたのも?」
「そりゃ、そうだ。いつでも処分できるよう。いつでも懐にもぐりこめるようにってな。おたくら魔導師とちがって、俺たちのようなしがない工作員が最初に学ぶのはなにか知ってるか?――他人の心にもぐりこむ方法だよ。距離感を埋める方法だ。喋るときの声色、内容、それどころか、歩く姿までも相手の警戒を解くことを目的としているんだ。どうだ、『死神』?俺を、警戒したか?いつから心を許してしまった?」
「イグナァアアツゥゥッッ!」
嘲るように口角を吊ったイグナーツへとアルフォンシーヌは激昂した。
もしかしたら、自覚し始めた秘めたる思慕の念を踏みにじられたという、実に少女じみた理由だったかもしれない。
――それでも、腹が立ったのだ。
だが、魔術を発動できない女魔導師などを武闘派の工作員が怖がるはずもなく、薄ら笑いを湛えた馬面のまま、言った。