第三話〔続〕――死神と炎人と帝国の黒歴史-13
「ぅっ」
アルフォンシーヌは、手に持った魔導媒体へと魔力を注ぎ込み、『白矢』を発動させようとした。
だが、その直前、思いとどまる。
なぜなら、この短杖は――
「ぁっぁああああっっ!!」
脱出後、もしものときにとイグナーツから受け取ったものだったのだ。
アルフォンシーヌは悲鳴を上げた。
杖を握った右手、そこから全身へと強烈な痺痛が伝播したのだ。
魔力に反応したトラップだ。中断したものの、わずかばかりの魔力は注ぎ込んでいてしまったらしい。
麻痺した自身へとイグナーツが迫り来る。
なんとか反応しようとアルフォンシーヌは必死に四肢を力ませるが、一瞬で回復できる電撃ではなかった。
その間にイグナーツの間合いへと捕らえられ、そして、足を払われ馬乗りに――右腕を捕らえられ、背中に回された。
「ぁぅ……」
間接を極められたアルフォンシーヌ。
けれども、今度は予期していたことだっため悲鳴はなんとか飲み込むことができた。
視界の端ではウェイターが怯えた表情でこちらを見てきている。しかし、その眼差しにはどこか覚悟していたものが窺えた。
(初めから、グルだったのか……)
アルフォンシーヌは唇をかむ。
このような占領下の街の住民が取る態度は三つだ。
反抗するか、諦観するか、従属するか。
この店は――いや、この街は三番目を選択したのだろう、すでにこの街は帝国の意のままに動くはずだ。
「悪いな、『死神』」
感情の窺えない声色でイグナーツが告げてくる。