第三話〔続〕――死神と炎人と帝国の黒歴史-11
「第一、遺跡の発掘物なんてもんじゃあ帝国の大基盤はビクともしねえよ」
「それは……まあ、そうだな」
「だろ?」
もう一度、杯を傾け中身を空にしたイグナーツ。
ウェイターを呼ぶ気配を見せたので、アルフォンシーヌもあわてて自身の杯の中に残った酒を飲み干した。
「たしかに、よく思い返してみれば――」
「同じもんを」と頼んだイグナーツを見つめ、ウェイターが離れていったのを確認したのを目の端にアルフォンシーヌは口を開けた。
「パスクの言ったことには不可解な点が多すぎる。大陸史に記されていない九番目の存在だとか、最深部に眠った失われた魔獣の仮面による供物の儀式だとか、眉唾なものばかりだ。とくに、導師たちを殺したのが陛下だなどと――」
「んま、偉大なる皇帝陛下がんな些事にいちいち勅命を出すわきゃねえってんだな。大臣のだれかの独断ってほうが、まだ真実味がある」
「ちがうのだ、イグナーツ」
そこでウェイターが代わりの杯を持ってきたため、一旦、話しを中断する。
礼をいい、チップを渡したイグナーツへ、ウェイターの姿が消えたのと同時に告げた。
「ちがうんだよ、イグナーツ。陛下の命で、ではなく『陛下ご自身』が殺したと――」
「っ――」
杯を口元へ運ぼうとしていたイグナーツの手がピタリと止まる。
そんな固まった男へとアルフォンシーヌは続けた。
「ありえないだろう?それは、たしかに陛下も騎士たちに混じり訓練もこなされるし、武術、馬術らの腕も一流だ。それでも八人の導師相手に――どうしたのだ、イグナーツ?」
見ると、イグナーツがさきほどからまったく動いていない。
同じ姿勢で凍りついていた。