第三話〔続〕――死神と炎人と帝国の黒歴史-10
「――話したいこともあるしな」
「それは、わたしも同じだ」
アルフォンシーヌは頷いた。
彼女が話したいこととは、師とその夫を含めた八人の導師ら――その死の真相のことである。
遺跡調査中の事故だと聞かされていたし、アルフォンシーヌだって疑っていなかったのだが、先日、あの『魔人』にして『リンクスの聖人』パスクから新説を聞き及んだのだ。
それは、帝国の陰謀に巻き込まれ、結果、陛下の命で謀殺されたという、信じられぬものである。
だが、彼らが調査していた現在発見されている中では大陸最古の遺跡のひとつ――『リプドゥアルクタ』遺跡で、仮に帝国に不利益なものが見つかったとしたら、それも十分にありえるかもしれない、とも思ったのだ。
「――それは……さすがにないだろ」
「そうか?いや、やはり、そうか……」
そんな話しをかいつまんでイグナーツに話した。
帝国勢である彼になぜ話したのか、アルフォンシーヌ自体が不思議に思ったし、けれど、誰かに話さずにいられなかった心情もある。
ここは酒場だ。
ただ、一般的な大衆酒場ではなく、どちらかといえば街の裕福な層が訪れるだろう、そんな上流の社交場をかねた酒場であった。
けれど、今日は雨雲が出てきていたことも関係あるのか、十席ほどの客室に自分たち以外の客の姿はなかった。
だからこそ、話しも進んでしまったのかもしれない。
「そりゃあ、そうだろうに。アイントベルグっていやあ、『賢者の律令』を代表する導師だ。門外漢の俺ですら聞いたことのある名なんだから、相当なんだろう。つまりは、帝国魔導界の重要人物だ。それを、たかが遺跡の発掘物を隠遁するためだけに殺すってのは発展性がなさすぎる。そもそも、失敗したときのリスクが高いうえ、導師八人が相手など、失敗する可能性が高すぎるってんだ」
そこでイグナーツは杯をあおった。
その男性的な喉仏がごくりと動き、思わず、アルフォンシーヌは凝視してしまう。
けれど、そんな視線には気づかないのか『首刈りの黒三日月』は肩をすくめ、言った。