ポートセルミ編 その一 アルマ-6
「ちょっと、何をのんびり言ってるのよ。私はさっさとアルパカに行きたいのよ!?」
「もう直ぐ雨が降りますので林道近くの大樹の下でやり過ごします。それに林道が湿った状態だと轍がぬかるみに取られます。遠回りになりますが、迂回を提案します」
「だーかーら、私は急いでるの! なんとかならないの?」
その提案に真っ向から反対するアルマに、リョカは被りを振る。
「急ぐからこその遠回りです」
「お嬢様、ここはこの青年……リョカ殿の言うとおりですぞ。急いてはことを仕損じる。この前の取引もお嬢様の短気のせいで……」
「でも、その後の取引ではしっかりまとめたでしょ? 何事も速攻よ、スピード第一、慎重は二番」
ふうっと頬を撫でる西の風。リョカが空を見上げると、足の速い雲は既に林道の頭に差し掛かっている。
「皆さん、急ぎましょう。あの大樹の下まで早く……」
リョカはまだ言い合うアルマとフレッドを他所に二人の従者を促す。リョカのギルドでの経歴を知っている二人は頷くと、馬を急がせた……。
**――**
本降りになるまでに避難できた一行。五メートル先も見えない土砂降りを大樹の下で凌ぎながら、固めに焼いたパンと干物で早めの昼食を始めていた。
「さすが経験者は語るって奴ね……。でもこの雨、いつ上がるのかしら?」
しみじみというアルマは従者達とは別にハニートーストを齧っていた。
「アルパカは平野が多くて通り雨が多いんです。ですが、一過性なんですぐにやみますよ。ただ、林道はあの通り無理ですけどね」
林の間の道では、雨垂れにうがたれて土が跳ねている。比較的軽いとはいえ、馬車が行けばどうなるかは目に見えている。
「でも、草原だってべちょべちょじゃない? それに結構生い茂ってるけど、車輪がとられちゃったりしないの?」
「草原は大地に根を張っているおかげでぬかるみになりにくいんです。それにこの馬車は車輪が太いので丈の深い草でも取られにくいです」
「へぇ、良く知ってるのね」
「ええ、昔父さんと旅をしていたときに教えてもらいましたから」
「ふうん。で、お……、そのお父様は?」
「えと……」
リョカは言いにくそうに頭を掻くと、丁度良く日が差し始める。すると先ほどまでの雨が嘘のように晴れ上がる。
「よし、行きましょうか。アルマさん、急ぐんですよね?」
「え? えっと……まあそうだけど」
「それじゃ行きましょう。明日の夕方までには着きたいですし……」
リョカはパンくずを払いながら立ち上がり、馬車へと走る。その後ろでは、アルマがどうもはぐらかされたと、手を腰に当て、ふんと鼻を鳴らしていた……。