ポートセルミ編 その一 アルマ-13
「そう? ふうん……」
「アルマさん、その……、昨日はごめんなさい。あんなことをして……。アルマさんを診ていたら我慢ができなくて、いえ、こんないい訳をしてもしょうがないですけど、不思議と気持ちが抑えられなくなって……」
「決めた!」
昨日の暴挙を恥じるリョカ。出発までに一言謝っておきたかった彼は、とつとつと話しだす……が、思いついたアルマはポンと手を叩き、それを遮る。
「はい?」
「私もポートセルミに行くわ」
「え?」
「さっきドルトンさんに工程を聞いたんだけどね、結構かかるみたい。かなり難しい形状だから、いくつかサンプル作ってみないと満足いくものが作れないからってさ……。その間この街にいてもやることないし、一度事務所に戻って色々整理したいことあるし。リョカが護衛についてくれるなら安心でしょ?」
「え? え? え?」
アルマの提案にリョカは驚きを隠せない。気持ち、嬉しい反面、昨日のことを彼女が胴捉えているのかはかりかねてしまう。そして、自分自身、どうしたいのか、どうするべきなのか、それがわからなかった。
「いけません、お嬢様!」
さらに遮るのがフレッドの一喝。
「わがまま放題を多少は見逃してきましたが、今日という今日は許しませんぞ。お嬢様には縁談、お見合い、数多と申し込まれているのです。私としてもお嬢様がステキな伴侶を見つけるまで、死ぬに死ねません。この機会にどうかサラボナへ戻り、お見合いをですねぇ……」
「そうは言われてもフレッド、私も忙しい身分だし、今度何時ポートセルミに寄れるか判らないわ。確かお孫さん二才になるそうね……。可愛い盛りだと思うけど、次に会う時はきっと口も達者なフレッドみたいになってるかもよ?」
「私の孫に限ってそのようなことはありません……」
「どうかしら? でも、きっと会いたがってると思うわ。フレッドおじいちゃん、だーいすきなんて言ってたり、さびいしいなぁなんて……」
幼子の声色を使うアルマに、フレッドはしばし考え込む。
「わかりました。ですが、お見合い冊子にだけは目を通していただきますぞ……」
さっと取り出す辞典と思えるほどの冊子に、リョカもアルマも一歩退いてしまう。
「いぃ……、あはは、わかったわよ。船で暇つぶしがてら、見させてもらうわ……」
そうこうしているうちに、リョカの護衛任務の延長が、なし崩し的に決まっていた……。
続く