「三角形△ワルツ」-2
…それは、3ヶ月前。
大事な仕事が一区切りついたので、チームの何人かで飲みに行った帰り。
凌と(その頃は相模くん、と呼んでいたけれど)一緒に帰るのはよくあることで。
それはただ家が近いから、…あたしはそう思ってた。
先に電車を降りるあたしに付いて、その日はなぜか凌も降りたから、何か相談でもあるのかと思って、ホームの端に移動する。
彼は、人がはけるのを待って言った、突然。
…―「若狭先輩が好きです!
俺と、付き合っていただけないですか」
抑えた低い声だったけど、気迫は伝わった。
あたしは、いきなりすぎて無言。
だって、なんとなく好意は感じていたけれど、まさか告白してくるほどとは思ってなくて…。
…―「俺が、ただの頼りない後輩でしかないのは分かってます!
でも、試しに彼氏にしてもらえませんか?
…大切に、します」
その、最後の宣言が本当に心が籠ってて、その時は特に好きな人もいなかったあたしは、あっさり頷いたんだ。
3ヶ月かけて凌を知っていって、陰の努力とか、本当に大切にしてくれるトコとか、少しずつ好きになっていった。
もう子供じゃないから、えっちだって何回かシたけど、すごく優しく、大切にしてくれた。
それなのに…
「…んっは!…くる、し…!」
あたしは、ぶんっと頭を横に振って凌のくちびるから逃れた。
必死で酸素を取り込む。
雨でいつもより重たくなったあたしのストレートの黒髪が、凌のほおに当たって痛そうだった。
…ぎりぎり、
あたしの腕が、更に壁に押し付けられる。
「…珠子さんが悪いんです、俺を傷付けるようなことして…。
しかも無意識に、だなんて…」
「っきゃあ!」
いきなり、身体が宙に浮いた。
背はそんなに高くはないけれど、筋肉質な凌。
でもまさか、こんなに軽々とあたしを持ち上げられるなんて!
てゆーか、これって…お姫様だっこ!?
あたしは、自分が凌に何をしたのか考えなくてはいけないのに、生まれて初めてのお姫様だっこに、思わず興奮してしまった。
ひょい、と足をすくわれた時に、条件反射でしがみついた凌の首。
間近から凌の首すじや、少し茶色くて、短いけれど柔らかそうな髪を見上げる。
視線を移すと、眉を険しくしかめた表情に、いつものようにジェルで固く立たせた前髪。
外出しないのにちゃんと整えてる、髪…なんて、浸ってる場合じゃなかった。
…どさっ!
「…っん!」
放り投げられたのは、もちろんベッドの上。
何度か乗ったけれど、凌のベッドは広いけどちょっと固くて痛い。
ぎしっ、と音を立てて、凌が乗しかかってくる。
その瞳の色を見て、さすがに焦った。
ケモノみたいに、ギラギラしてる…!
「…ちょっと!
まずは、ちゃんと話してよ!
分からないって言ってんだから、あたしには悪気は無いのにその態度、…きゃああぁっ!!」
…ブチブチ、ブチッ!
…のやろう、ブラウスのボタン、引きちぎりやがった!
こっちも本気で抵抗してやる…!