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無垢
【その他 官能小説】

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天使-4

「絵里!」

隆一が小さく呟いた。

隆一さんが私を呼んだ。気のせいじゃない、絵里にはハッキリと隆一の声が聞こえていた。絵里は、隆一の姿を探した。会場は薄暗かったが、見つかると信じて隆一を探し続けた。そして、絵里は、会場の後ろにいた隆一の姿をハッキリと捉えていた。

絵里が僕を探している。僕の声が聞えたのか?いや、そんなことがあるはずがない。
そう思いながらも隆一は絵里を見詰め続けずにいられなかった。そして、絵里の視線が自分を捉えて止まっていた。

絵里が僕を見つけた。隆一にはそれがハッキリと分かった。次の瞬間だった。

「絵里が、絵里が笑った・・・・・」

隆一は言葉を失った。絵里が、弾けるような笑顔を見せたのだ。地獄の中で怯えきった絵里が、隆一の姿を見つけ、愛し合った日々と変わらない、弾けるような笑顔で笑っている。それは、全てのものを愛し包み込む、天使そのものだった。

笑顔を見せた絵里に会場はどよめいた。そして、次々と入札の声を上げはじめていた。

「90万ドル!」

気が付けば、隆一は大声を上げて入札に参加していた。

隆一は、気付いた。溢れ出る涙も、胸の痛みも、その全ては絵里を失うことを恐れてのものなのだ。そして、絵里は少しも汚れてなどいなかった。どこまでも隆一を信じ、隆一の心を癒すためだけに地獄に身を投じているのだ。そして、酷い仕打ちを与えた隆一を恨むことさえなく、今も隆一を信じ、愛し続けているのだ。絵里の心は、どんなに不幸な出来事にも穢されることなく純粋で無垢なままだった。

隆一さんが、声を上げた? 入札しているの? こんな私を買い戻してくれるというの?

絵里は、信じられない思いで、隆一を見詰めていた。狂ったような目つきの入札者達の声を遮るように、隆一は声を上げ、最高値を更新し続けている。そして、その声は誰よりも気迫に満ちていた。

隆一さんは、こんなにいけない私を許してくれると言うの? 隆一さんは、こんな私を買い戻してくれると言うの? 絵里は、隆一の心の広さに胸を打たれた。嬉しかった。涙が止め処なく溢れて止まらなかった。

隆一は、必死で叫び続けた。金額が恐ろしく跳ね上がっていく。隆一に、諦めるつもりなどありはしない。しかし、隆一の資金にも限りがあるのだ。落札後、速やかに現金を払い込まなければ、組織は絵里を引き渡すことはないのだ。

もし、絵里を取り戻せなかったら・・・

見るに耐えない姿に引き裂かれ、血液と汚物にまみれた絵里の姿が頭をよぎる。
隆一は怖かった。生まれて初めて震えるような恐怖に包まれていた。絵里がいない世界など考えられない。絵里から笑顔を奪うことなど耐えられない。隆一は、自分の絵里に対する強い思いに初めて気付いた。そして、絵里を取り戻せなければ、自分も生きては行けないと悟っていた。

隆一は、叫び続けた。全てを掛けて、叫び続けた。そして、ついに相手が降りた。
そして、その金額は幸いにも隆一が用意できる金額だった。隆一は、絵里を取り戻した。




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