優しさに包まれて-1
コチ、コチ、コチ・・・・
時計の秒針の音が、妙に耳につく。
彼は、今日帰ってくるんだろうか・・・。
お皿に乗った料理は、もうすでに冷えている。
・・・まるで、今の私たちのようだ。
斉藤 千鶴、29歳。
結婚5年目。
子供は、いない。
望んではいたけど、なかなか恵まれなかった。
彼は、そんなに欲しそうじゃなかったけど・・・。
千鶴は、時計に目をやる。
時刻は、10時を回っていた。
仕事・・・のはずは、ない。
こんなに、関係が冷え切る前は遅くても7時には帰ってきていたのだから。
どうして、こんな風になってしまったんだろう・・・。
社内恋愛で、結婚した千鶴。
そんなに燃え上がるような恋愛じゃなかったけど、
結婚するならその方がいいんだろう、と思った。
だから、乞われるままに結婚した。
結婚後も、派手なケンカもなく、穏やかな日々。
物足りない・・・でもそんな感情、友人がダンナの浮気で
悩んでいる中、贅沢すぎて誰にも言えなかった。
それが・・・。
こんな風になってしまうなんて。
ある日を境に、彼の帰宅時間が遅くなった。
「どうしてこんなに遅いの?」と聞いてはみたけど、
「急な接待で・・・」と、いうことだったけど・・・。
そんな日が、段々と増えていった。
社内恋愛だった二人。
結婚したら、二人が同じ職場にいられない規則が
あったため、結婚と同時に千鶴が退職した。
前は同じ職場にいたので、わかる。
そんなに、接待とか多いわけはないと・・・。