優しさに包まれて-2
ガチャガチャ・・・
玄関で、鍵を開ける音がする。
帰ってきた・・・!
思わず千鶴は立ち上がった。
居間に入ってきた夫に、
「おかえりなさい。ご飯、温めるね」と声をかける。
「いらない」
夫は、面倒くさそうにネクタイをむしり取ると、
そのままバスルームへと行ってしまう。
「・・・っ・・・」
千鶴は、冷め切った夕飯が乗った皿を目の前にして、立ち尽くした。
最近・・・いつもこうだ。
まともな会話・・・いつから、してなかったかな・・・。
千鶴は、夕飯が乗ったお皿を冷蔵庫に入れ、片付け始めたー・・・。
「・・・最近、元気ないね。どうしたの?」
ボーっと、窓の外を眺めていた千鶴に声をかけたのは、
パート先の喫茶店のマスターの、野崎。
退職後、千鶴は近所の喫茶店で働き始めていた。
小さな喫茶店で、マスターの野崎が一人で経営している。
千鶴は、日中の忙しい時間にパートに来ていた。
千鶴は、野崎を見つめる。
―・・・全部、話してしまいたい衝動に駆られる。
友達や、親には夫とのことは話せなかった。
もう・・・一人で抱え込むのは限界に近い。
野崎とはもう4年一緒に働いているけど、信頼できる人物だ。
マスターになら・・・話しても、大丈夫だよね・・・?
「・・・実は・・・」
千鶴は、重い口を開いた。
話を聞き終えて、野崎は
「・・・そっか・・・。そういう状態、どのくらい続いてるの?」
「もう・・・1年くらいですね」
「その間、ずっと一人で抱え込んでたの?・・・よく、頑張ったね」
野崎の、手が千鶴の頭をポンポンと撫でた。
―・・・暖かい・・・。
人の、温もりを感じるのは久しぶりで・・・
思わず涙腺が緩んだ。
涙がこぼれて、思わず顔を背ける。
野崎は、千鶴の頭を抱くと自分の胸に押し当てた。