四日目-1
花火が打ち上がる。
遠くから聞こえる歓声の中に、あの家族の声も入ってるんだろうか。
あの子も、彼に抱かれて見てるのか。あの子に見せた彼のあんな優しい顔、あたし見たことない…
「さっきのが彼氏?」
「…」
「仕事じゃないじゃん」
「…ったの」
「え?」
「知らなかったの」
「…」
「家族がいるなんて、あたし知らなかった…っ」
顔が上げられない。
アスファルトに落ちていく涙は止まる気配がない。
何やってんの、あたし。
なんでこの子の前で泣いてるの?
何時間もかけて準備した自分が惨めで惨めで誰にも見られたくないのに、次々と打ち上がる花火は容赦無くあたしを照らす。
花火なんか、大っ嫌い…
「そーゆう男だって分かって良かったんだよ」
「…良かった?」
「そうだよ、だから」
「あたしは知らないままでいたかった!」
あたしの叫び声に驚いたのか、一瞬緩んだ秀君の腕を思いっきり振り払った。
「知りたくなかったのに…」
「それで、ずっと騙されたままのが良かったの?」
「彼といられるなら、騙されたままのが幸せだった」
「んなわけねぇだろ」
「彼の言うこと、聞けば良かった」
「は?」
「ちゃんと家にいれば良かった」
「何がいいんだよ」
「秀君があんな誘い方するからじゃん!」
「はぁ!?」
「あたしは家にいるつもりだったのに!秀君があんな――…」
「俺のせいかよ!」
「…っ」
怒鳴った秀君の声が、顔が怖くて、それ以上言葉が出てこない。
「あんた俺に言ったよなぁ?不倫は駄目だとか人の家庭壊すなとか。知らなきゃいいのかよ!ばれなきゃみんな幸せなのか!?」
「だって、」
「あの子はどうなる?よその女抱いた手で触られたって知ったらその時点で家庭崩壊だろ」
「じゃあ自分はどうなの!?愛人の家に堂々と居座って子供達が知ったら―」
「俺はあんたとは違う」
「違わないじゃん」
「違う。俺はちゃんといなくなるから」
「…」
「夏休みが終わる前に、もう、終わらせる」
はっきりと言い切られて、この子はあたしとは違うんだと納得するしかなかった。
あたしときたら、人に偉そうなことばっか言った挙げ句あんな場面を目撃したのに、まだ彼を信じたいと思ってる。