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熱帯夜
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四日目-4

*****


俺は何を言ってるんだろう。

「はあぁああぁあぁぁ…」

雨雲のような陰気臭いため息をもうさっきから何度もついている。

みのりさんにとって、人生最大レベルの決断を下そうとしてる時に、言うに事欠いてデートの続きしよって…

「俺、こんなだっけ」

しょうがないじゃん、楽しかったんだもん。一緒に並んで歩いて手を繋いで、死ぬほど緊張してドキドキして、それが新鮮ですごく楽しかった。
消化不良で終わったデートの続きがしたいんだ。

隣の部屋が見えないようにカーテンを閉めたのに、その向こうが気になって仕方ない。

勝手にしろと言ったのは俺。
だけど勝手になんかしてほしくない。
あんな、家族まで騙すような嘘つき野郎がみのりさんを幸せにできるはずがないんだ。みのりさんだってきっと分かってる。

『好きになってもしょうがない人を好きになっちゃったからね』

みのりさんに向かって言ったんだよ。そんなこと、気づいてもらえるわけないけど。

こんな短期間で誰かを好きになるなんて有り得ないと思ってた。
ちょっと特殊な出会いのせいで気になってるだけかもとか、彼氏に大事にされてないから同情してるだけかもとか、他の理由も探した。
でもどれもしっくりこなかった。
その度に思い知らされる。
やっぱりこれは恋なんだって。

母さんが婆ちゃんちに滞在するのが一週間。こうしていられるのもあと2〜3日…、いや、もし別れなかったらさっきのが最後の会話になるのか。
隣の家に住んでるのに、今まで10年間全く顔を見なかった。このまま別れたら、このカーテンを開けなければ、またこの先10年間会わずに過ごすんだろうな。

もし、初めから嘘をつかないでいたとしたら、これからもずっとお隣りさんとして接してくれたかな。
もし俺が嘘つきだと知ったら、それでもみのりさんは俺を秀君と呼んでくれるかな。
それとも、もう――…

何も考えたくない。
頭の中を空っぽにして、ただぼーっとしてたい。せめて、明日の夜中まで…

財布を掴んで外に出て、自転車を飛ばして近所のレンタルビデオ屋に入ると、適当なDVDを数枚掴んでレジに並んだ。

リビングのエアコンをつけっぱなしにして、ひたすら映像を眺めていよう。寝っ転がってジュース飲んでお菓子食べて、ダメな夏休みの代表みたいな時間を過ごす。

みのりさんを信じてる。
あの人は馬鹿な決断をする人じゃない。
でもあんなに泣くほど好きだった相手だ。直接顔を合わせて会話をしたら…

「はあぁああぁぁあぁあ!」

いかん。
妄想の中でみのりさんが脱がされてた。
ないないないない!
絶っっっっ対ない!
何も考えるな俺!
とにかく食って寝て時間が過ぎるのを待つんだ。



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