四日目-3
「好きになってもしょうがない人を好きになっちゃったからね」
まっすぐ目を見られて、あたしはその目を反らせなかった。
あたしと奥さんを重ねてるのかな。恋をした相手に直接言ってるみたいだ。
「これでも、自覚してんだよ」
シリアスな空気をごまかすように、今度はニッと笑って言う。
「偉いね」
「偉くないからこんな事態になっちゃってんだよ」
「ううん、偉いよ。ちゃんと分かってるもん」
「みのりさんは分かってないの?」
「…さっき、彼からメールきたの」
「ふぅん」
「話があるって」
「そりゃあるだろうな」
花火大会の真っ只中に送られてきたメール。家族が夜空を見上げてる隙に送信したみたい。
メールを受け取った時、もしかして秀君からかもと思った。彼からのメールだと分かって、複雑な気持ちになった。
あたしは彼が好きだから、だからあんな現場を目撃して傷ついて泣いたのに、近いうちに秀君がいなくなる事も同じくらい悲しい。
あたしは今、誰を好きなんだろう…
「いつ会うの?」
「明日、仕事が終わったら」
「またドタキャンされるんじゃないの?」
「かもね」
「…」
「…」
長く続いた会話の後に待っていたのは同じくらい長い沈黙。
秀君はあたしをどう思ってるのかな。
同じ立場のくせに全く覚悟ができてないあたしを、この子はどんな目で見てるんだろう。
「あのさ、」
その沈黙を破ったのは秀君。花火デートの保険を提案した時みたいな明るい口調で、
「別れたら報告して。今日のデートの続きしたいから」
また、そんな提案をする。
「は!?」
「別れないなら報告はいらない。俺達は今日でお別れ」
「そんな…」
「じゃ、いい報告待ってるね」
笑って言い残して、カーテンは閉められた。
秀君はいつもそう。
強引にデートの約束をこじつけて、抱えていた悩みをうやむやにしてしまう。
秀君は優しい。
ひどいことを言ったあたしを許してくれた。
また顔を見せてくれた。
それがすごく嬉しかった。
嬉しくて嬉しくて、また泣きそうになった。