四日目-2
「別れる気ないんだ」
「…」
「じゃあ勝手にすれば?」
吐き捨てるように呟かれた悲しい言葉を残して、秀君はその場からいなくなってしまった。
呼吸が苦しくなるのは花火の爆音のせいだ。身体の芯に直接響くそれに胸を締め付けられるようで、大きな音に紛れてひたすら泣いた。
何が一番ショックなのか自分でも分からない。
彼に家族がいたことか
騙されていたことか
秀君が行ってしまったことか…
ついさっきまで彼の事で泣いていたのに、置き去りにされた瞬間、頭の中にパッと秀君が現れて、消えてくれない。
ちゃんと叱ってくれたのに。説得しようとしてくれたのに、あたしは――…
「…っ!?」
持っていた巾着から微かな振動を感じた。
メール?
もしかして…
震える手で携帯を取り出してメッセージを確認した。
*****
秀君の部屋は真っ暗だった。
慣れない浴衣や沈みきった気持ちのせいで、祭の会場から家まで帰るのにいつもの倍以上時間がかかってしまった。
部屋のカーテンは閉まってる。でも、窓は開いてる。
帰ってきてる…
自分の部屋の窓を全開にして、一つ深呼吸をした。
「秀君」
隣の部屋に向かって呼び掛けたけど、返事はない。
寝てるとかいないとか、そんな発想ができない。
怒ってるんだ…
「ごめんなさい」
呟くと、止まったばかりの涙がまたぼろぼろとこぼれ出した。
「ごめんね…」
窓の向こうはただの暗闇。
音も光もない。
酷いことを言った自覚はある。
許してもらえないかもしれない。
もう、顔も見せてくれないかもしれない。
そう思うと胸が痛くて痛くて、グズグズと鼻を鳴らしながら窓を閉めようとした時だった。
隣の部屋のカーテンが勢いよく開いて、
「あんたっていつも泣いてるよな」
眉間にシワを寄せて、呆れ口調の秀君が窓から顔を出した。
「ごめん」
「謝られても困る。俺、なんもできんし」
「…」
まるで突き放すような言い方。
本当に…
「本当に、いなくなるの?」
尋ねると、秀君は少しだけ笑って、それから真剣な顔であたしを見た。