南の島にて-5
五年前… 恋人と別れる決心をしたあの夜、私は戸惑う恋人をSMホテルに誘った…。
…この縄で縛って欲しいの…と、私は、縄の束を目の前に置いて彼に言い寄った。
私の言葉に躊躇うように彼の瞳の中がゆらいでいた。私は、彼に縛られることで彼の妻以上の
女になれるような気がしたのだ。
性を交わす恋人の優しすぎるほどのペニスが、私のからだには、もどかしかったのだ。
気がついたときは、いつもそうだったような気がする。行為が終わり、彼が衣服を身につけた
とき、彼のワイシャツから、ふと別の女の香水が匂った。そのとき、私は彼に妻がいることを、
嫌でも感じなければならなかったのだ。
恋人とのそんな関係は、狂おしい恋情と欲情を欲しながらも、いつからか気だるさと苛立ちに変
わっていった。深い沼に腰までしか浸れない中途半端な情事に、私の肉体と心は、昇華していく
先が見えなかった。
だから、私は彼に縛って欲しかった…縛った私のからだに、私が気絶するまで鞭を振り下ろして
欲しかったのだ。そして、のたうつ私の中を、ペニスで烈しく汚辱し、焦らし、私が高みに尽き
果てるまで、容赦なく私の深みを突き上げて欲しかった。
彼が彼でなくなり、私が私でなくなり、ふたりがひとつに溶けあい、どこまでも、どこまでも
堕ちていきたかったのだ…。
でも、最後まで恋人は私を縛ることも鞭を手にすることもなかった。私は彼にとって妻以上には
なれなかったし、彼は私にとって恋人以上にはならなかったのだ。
私がかわいい女であり続け、恋人は優しい男であり続けた…私たちの関係は、ただ、それだけの
ことだったのかもしれない。
あのころの自分のからだの中で、行き場のないため息が、いつも子宮の中から洩れていたような
気がする。静かな諦めと切なさが、化石のように死に絶えた欲情となり、自分の中をよぎって
いたのだった。
私は男の子の薄いブリーフをゆっくりと脱がせる…。
淡い灯りの中で、薄紅色の可憐なペニスが、早春の草原のような淡い陰毛に覆われ、恥ずかしげ
に震えながら堅さを含み始めていた。亀頭の肉淵を薄い膜のような包皮が包み込み、ウサギの眼
のような鈴口が、おびえるように私をじっと見つめている。