ラインハット編 その七-12
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「マリアちゃん、本当にいいのかい? だって、あのやどろく、きっとあんたのこと……」
「いいんです。私が居たら彼は何もできませんし……」
安普請のアパートにて荷物をまとめるマリア。隣の部屋に住む世話焼きなおばさんは、マリアの突然の出家に驚きを隠せなかった。
彼女のような器量良しなら嫁の貰い手も多い。たとえ一年の他の男と暮らしていたとして、彼女を欲しい、なんとか紹介してくれという男達が何度も来た。その度におばさんは袖の下をいただいていた。
「ちょっとちょっと、あのリョカだっけ? 風来坊なんかよりもっといい男はいるんだから、ほら、おばさんのところにもたくさんマリアちゃん紹介してよって来てるし、少しぐらい選り好みしてもバチはあたらないよ。なんだってもう、女を捨てるような生き方なんてしなくても……」
「いいんです。私、悪い女ですから……」
「もう、マリアちゃんが悪い女なら、あの馬鹿野郎は魔王か何かかい? まったく、世の中どうかしてるよ……」
理解できないとばかりに被りを振るおばさん。結局マリアの意志が覆りそうにないと知り、エプロンで手を拭いたあと、そっと差し出す。
「短い間だったけど、元気でね。そうだ。聖ルビス教会に居てもお仕事はできるんだろ? パン屋の親父が看板娘居なくなって困るっていうんだよね? たまには手伝いにきてくれよ……」
「はい……。おば様、いろいろと私達によくしていただいて、本当にありがとうございます。それと、もしリョカさんが戻ってきましたら、この手紙を渡してください」
マリアは一通の封筒を渡す。
「あい、わかったよ。それじゃあ元気でね……」
「おば様も……」
マリアは女一つ、小さな荷物を持って、かすかな幸せをくれた仮住まいを後にした……。
続く