第一章-1
「……というのはいかがでしょうか」
長く大きめなポニーテイルで、メイド服を着た美少女が意味深な発言をした。
「スミレからそんな発言が聞けるとは思わなかったわ。けど、実に面白い。興味をそそられるわぁ」
不敵に笑う美女。その容姿は指通り抜群のダークロングヘアーの持ち主で、類い稀な爆乳を誇っている。
「ヒロにそんなことさせるのかぁ。うぅぅぅむ、姉としてはぜひしてもらいたいわね。心の健康のためにも」
三人目の美女は、見た目スラッとした快活女子。スレンダーな体型だが、モデルを彷彿させる身長がある。髪は闇夜に溶ける漆黒。
土曜の昼下がり。メイド少女・山吹スミレ、爆乳美女・花橘アオイ、スレンダー女子・天道早苗はリビングにて、こそこそ話を展開していた。もちろん、話の中心は愛すべき天道ヒロユキにたいしてのものである。
「まさかこの薬にああもオイシイ効能があるとはね。正に今のヒロユキ君の為にあると言っても過言ではないわ」
アオイは小瓶を手に持ち、小さく振ってみる。中身の怪しく光るピンク色の粉が踊り、スミレと早苗はそれを注視する。
「やりますか。これもすべてはヒロのため。ミッションスタートよ!」
『おおっ!』
三人は手を重ね合わせ、一致団結をした。
「…………」
どうにも食べづらい。
今日は土曜日。土日はいつものように遊びに来ているアオイさんも加わり、夕食をとっている……のだが。
「…………」
さっきから三つの視線がボクに注がれている。ボクがスミレ特製の豚汁を飲むたびにギラッとしたものが突き刺さる。おかげで食欲がかなり削がれている。どうしてボクばかりを見るのか。うぅぅぅむ、謎だ。
「……あのさ」
沈んだ空気を元に戻すため、ボクは重く閉じていた口を開いた。
「何でボクばかりを見るのさ。三人ともおかしいよ」
『…………』
三人は黙ったまま、各々料理に箸をつけていた。いつもは過剰に反応するのに……。「ねぇってばぁ!」
ボクが痺れを切らせて怒声をあげると、スミレはビクッと身体を震わせた。他の二人は動じなかったが。
「ご、ごめん。いきなり大声出しちゃって」
「い、いえ。私どもも黙ったままですみませんでした。雰囲気、悪いですよね」
箸を止め、平謝りするスミレ。
「いや、いいよ。別に。ところで、何でボクばかり見てたの?」
「特に意味は無いわよ」
口火を切ったのは漬物に箸を伸ばすアオイさんだった。
「私たちはヒロユキ君のことが好き。だから食事中でも、無意識に見ちゃうのよ。これでも何か不満があるかしら?」
何となくわかるようなアオイさんの返答。でも、豚汁を食べるときに限るのが、腑に落ちない。
「そうですか……。ならいいんですけど」そう言いながらボクは豚汁をすすった。相変わらず熱い視線は存在していたが。