第一章-3
「ヒロ、降りてきませんね。何かあったのかな」
ソファーで、そわそわしている早苗。いけないとは思いつつも、ついつい爪を噛んでしまう。
「薬が効いているんでしょう。ま、大丈夫。臨床実験もしたし、ヒロユキ君にも影響がないことは実証されています」
アオイはスミレの淹れたコーヒーに口をつけている。早苗とは違い、冷静でいた。
「でも、心配です……」
スミレは紅茶を飲んでいたが、頻度は少な目だった。早苗同様、ヒロユキを心配してのことである。
「ヒロに変わった薬飲ませるのは初めてだからなぁ……。今ごろビックリ仰天してたりして」
「私、見てきます」
血相を変えてスミレは、ヒロユキの部屋へと駆けていった。
「私も行く」
早苗も立ち上がり、スミレの後を追う。
「……まったく心配性さんたちなんだから」
あきれ口調でいながら、やはり気にかかったアオイも、重い腰を上げた。
「元に戻らない……」
我慢を決め込んで数十分。ペニスが衰える気配は微塵も見せず、むしろ肥大化の一途を辿っている。ギンギンにそそり立つものだから、痛みにも似た感覚を覚えてしまう。
「何でだよぉ……。反芻はしても、その程度で勃起なんてするわけないのに」
一応、腫れ物扱いのために触らないでいたが、ついつい突いてしまう。これが、ミョウに切なくて辛い。
「やっぱりマズイものでも飲まされたのかなぁ。昨日、ヘンにみんながボクを見ていたし。まさか……」
ボクはひとつ仮説を立てた。
「豚汁か何かに薬物混入してたんじゃ……」
「その通りよ」
不意に声が聞こえてきた。ボクは身体を起こすと、目の前にはスミレ、姉、アオイさんが立っていた。
「さすがヒロユキ君。勘というか、洞察力はなかなか。ほとんど正解ね。……だけど」
「?」
はぁっと溜め息を吐くアオイさん。何をあきれているんだろう。
「何でしないのよ」
「何のことですか?」
ボクに思い当たる節はない。何をすればいいんだろう。
「ていうか、布団かぶっていてもわかるぐらい大きいのにしないって……。私ならためらいなくするのに。ヒロったら我慢し過ぎ」
姉はボクの布団で盛り上がっている、ペニスに釘付けになっている。目はキラキラさせながら。
「ご主人様、率直に申し上げますね。なぜ自慰をなさらないのですか?」
「なぜって……」
三人の意図が読めたような気がする。ボクに自慰をさせたい、この一点。けれど……。
「こんなにしたのはみんなのせいでしょ?また何かを企んでいるかと思ったけど……ボクは絶対にしないよ」
ボクは断固拒否の姿勢を見せる。
「あら、いいのかしら。このまま一生、その姿で暮らすのよ。仕方ないから詳細を教えてあげる」
ズイッとアオイさんが進み出る。軽く咳払いをすると説明を始めた。
「ヒロユキ君が飲んだ薬は、私が独自調合した超勃起薬よ」
「はぁ……」
ボクは溜め息を吐いた。
そんなボクを尻目に、アオイさんは着ていたスーツのポケットから小瓶を取り出す。「勃起状態を治すにはすべてのザーメンを出し切らないといけない。ここまでくればわかるでしょう?」
アオイさんはボクのペニスをビシッと指差すと正に爆弾のような発言をした。
「つまり、自慰をしないと元に戻れない!さぁ、自慰をするのよ!」
「えええっっっっっ!」
何ということだろう。ボクのもくろみはすべて崩れ去った。自然に収まると思っていたのに……。このままでは永遠に勃起状態?そんなのイヤだ!
しかし、ボクの頭にあることがよぎる。