異界幻想 断章-15
「ただいま」
乾燥野菜を煮込んでスープを作っていると、ジュリアスが戻ってきた。
担いだ枝には、小動物が三匹と野鳥が一羽ぶら下がっている。
「結構な戦果だな……そっちは焼いて、明日持って行こう」
ティトーは、手元を示した。
釣竿への食いつきが非常によろしく、炉の前には串に刺してこんがりいい色に焼かれている魚が肩を並べていた。
「お、焼けてるか?」
「そろそろだ。炉の前が空くから、先にそいつらを捌いてしまおう」
「おう」
頃合いに焼けた魚をフラウに食べさせながら、二人は獲物を捌いて串に刺した。
肉を焼きながら、三人は魚にかぶりつく。
炉の傍に置いて温めたパンとスープも一緒に腹へ納めると、最初にティトーが見張りに立って眠りに就く事となった。
毛布にくるまり、ジュリアスは眠ろうと目を閉じる。
しかし、なかなか寝付けない。
「……起きてるか、フラウ?」
駄目で元々のつもりで、ジュリアスは声をかけた。
「はい」
しっかりした声で、フラウは返事を返す。
「……明日か明後日には水の神殿に着くけれど、緊張してないか?」
それはむしろ、自分に対する問い掛けだったのかも知れない。
「緊張……ですか」
フラウの声は、意外そうだった。
「たぶん……していないと思います」
ジュリアスは目を開け、身を起こす。
同時に、フラウも身を起こした。
「ジュリアス様は、緊張してらっしゃるのですか?」
ご主人様と呼ばれる事を相当に嫌がられたため、フラウはジュリアスをそう呼んでいた。
「……どうだろう」
フラウはただ、自分が頼み込んだからついてきてくれているのではないか。
そう考えたら、どうしようもなくもどかしくて申し訳ない気持ちで一杯になった。
「フラウ……」
手を伸ばし、そっと彼女の手をとる。
「!」
びく、とフラウが震えた。
そういえば、フラウとこんな風に親しげに接触した事はなかった。
もしかしたら……ここに鍵があるのかも知れない。
手を繋ぐ以上に親しい接触と考えて、思わずジュリアスは唸る。
フラウの中で弄ばれ、虐げられてきたその部分を受け入れ切れるだけの度量が、はたして自分に備わっているのだろうか。
軽い気持ちで挑戦して見事に失敗しようものなら、フラウの心は永久に失われたままになってしまうだろう。
「……フラウ」
もう一度名を呼んで、ジュリアスはフラウを引き寄せた。
「あ……」
フラウがかすかな声を上げるが、構わず顔を近づける。
彼女が自分の心を取り戻せるならどんな事でもできると、ジュリアスは思った。
「ジュリ……」
フラウの唇を、優しく塞ぐ。
「俺は……君を、守りたい。普通に感情を示せる君が欲しい。そのために必要な事は、何でもするつもりだ」
「ジュリアス、様……」
「ただ、今はできないから……後で、必ず」
照れ隠しに笑うと、ジュリアスはもう一度口づけた。
「俺を、普通に受け入れられるかい?」
「……」
返事を返さないフラウは、真っ赤になっていた。
「フラウ?」
「ふ……」
しばらく硬直したフラウは、どもりながら呟く。
「普通、の意味は分かりかねますが……私をお望みでしたら、いつでも」