異界幻想 断章-14
「この子にとって、あなたは今までの人生から脱却するきっかけになった人物。その人物から活を入れられる事が必要だと思うの」
「活って……」
「何が活になるか、までは分からないけどね。それより、何の用?」
ファスティーヌから問われて、ジュリアスはここに来た目的を思い出した。
「フラウ、君……マイレンクォードのパイロットになる気はないか?」
「えぇ!?」
派手な声を上げたファスティーヌに向かって、ジュリアスは説明する。
「……という訳でだ、軍が入隊の際に付けてくれる条件を利用すれば、君の身請けにかかった金をいくらか親父に叩きつけてやれる。完済するまで君は親父のものな訳だから、早く自由になりたいだろ?」
「私は……」
フラウに、躊躇いの仕草が見えた。
「あなた様のお傍にいさせていただければ、それだけで……」
ジュリアスは、表情を引き締めた。
「ならば、俺のために頼む。フラウ、マイレンクォードのパイロットに志願してくれないか?カゼルリャ基地に来てくれれば俺の傍にいられるし、俺も……頑張る」
フラウを連れて家を出て、軍に就職して軍曹といさかいを起こし、今はっきり意識した事。
フラウを守りたい。
もっと力が欲しい。
ティトーと肩を並べたい。
「俺……レグヅィオルシュのパイロットを目指すよ。だからフラウ、君にマイレンクォードのパイロットを目指して欲しい」
それからしばらく経った、ある日の事。
「あそこで野営しよう。そろそろ暗くなってきた」
ティトーは小川の縁に寄り集まった木立へ目をつけると、馬から降りて木立の中を探った。
危険と思われる物は何もなく、茂った葉の層は厚くて夜露をやすやすとしのげそうだ。
「ここなら申し分ないな。俺が飯の準備をするから、二人でテント張ってくれ」
手早く指示を出すと、マントを脱いだティトーは馬を木に繋いでから手頃な石を拾い始めた。
ある程度集めたら石を積み上げ、簡単な炉を作る。
その間にジュリアスとフラウは協力して空いた土地に二人用のテントを張り、薪になりそうな枯れ枝を拾い集めた。
「何か狩ってくる。戦果は期待するなよ」
荷物の中から矢筒と組立式の小弓を取り出したジュリアスは、獲物を求めて木立の奥へ分け入っていった。
「フラウ、おかずがない場合に備えて魚を釣っといてくれないか?」
熾した火の中に釘を放り込んだティトーは、頃合いを見て釘を取り出す。
適当に叩いて曲げると釣り糸で釘と枝を結び付け、即席の釣竿を作った。
「エサはミミズがその辺にいるだろうから、掘り起こしてみてくれ。できるか?」
「はい」
フラウは素直に頷き、釣竿を受け取るとミミズを探し出して川に釣り糸を垂れた。
その様子を確認してから、ティトーは食料を物色し始める。
三人は今、水の神殿を目指して旅をしていた。
目的はただ一つ、水の精霊にフラウを引き合わせる事。
そのためにティトーはガルヴァイラの協力を取り付け、ジュリアスとフラウを連れ出す事に成功していた。
自身が休暇をとったばかりなのに基地を出て旅をしなければならない事についてはガルヴァイラの密命という口実をもうけ、研修と称して新兵のジュリアスを引っ張り出す。
フラウの事は、密命の達成に必要な民間人としてエスコート。
全て、嘘ではない。
舌先三寸で事務を引っ掻き回したティトーは二人を連れ、一路水の神殿へとひた走っているのだった。