三日目-2
「みのりさんは元気?」
「あたし?」
「うん、元気出ました?」
「…」
そっか、この子やっぱり見てたのか。
あたしが泣いてるとこ――…
「…俺、今余計なこと言いましたかね」
「言った」
「やっぱり?」
「普通黙ってるもんじゃない?」
「すみません」
「でも、大丈夫よ。元気出た」
「そうですか?」
「彼からもごめんねメール来たし。またあさって会えるし」
「あさって?」
「うん、花火大会」
「あー…」
一緒に花火を見に行こうって、ずっと前から約束してた。
新しい浴衣も買ったし、着付けの練習もした。
今日デート中止されてもそこまで落ち込まなかったのは、その約束があったから。
「良かったですね」
「うん、でも…」
「でも?」
壁に掛けられた新品の浴衣を見ると、ふっとため息が零れる。
ずっと楽しみにしてた。
だから思うんだ。
もしも、また…
「…中止されたらどうしよう、とか?」
あたしの不安をずばり言い当てた秀君の声に、パッと顔を上げた。
「当たり?」
「…当たり」
「ていうか、誰でも分かるから」
「ぐっ」
すぐ顔に出る馬鹿正直な自分の特性を、こんなほとんど初対面の子にまで言い当てられた。
情けないやら腹が立つやら…
「じゃあさっ」
秀君は少し声のトーンを上げると、更に窓から身を乗り出し
「俺を保険にするとかどうですか?」
そう切り出した。
「へ?」
思いがけない提案に頭の中にクエスチョンマークがポンポンと浮かぶ。
保険?
保険って?
「ドタキャンされたら、俺と花火大会行こうよ」
「…」
「お互い置いてかれた者同士でさ、寂しく花火見ればいいじゃん」
突然の申し出に戸惑うあたしに、秀君はちょっと待っててと告げると一旦窓から離れた。